最後の要石と最初の夕食

召喚師ユーディは、魔王を倒した翌日に王宮から追放された。

強すぎる召喚獣を恐れた大臣たちが、戦争の褒賞として辺境の荒れ地を押しつけたのだ。けれど彼女は一人ではなかった。掌ほどの石精カノアだけが、契約を解かずについてきた。

荒れ地には、屋根も畑もなかった。ただ、誰かが途中まで積んだ大きなパン窯があった。天井の中央に一個ぶん穴があり、要石だけが欠けている。

初日、ユーディはその一石を置くことにした。

召喚魔法なら、山から巨岩を呼ぶこともできた。だが必要なのは、穴へぴたりと収まる小さな石だ。二人は川原で一つずつ拾い、形を確かめた。

丸すぎる。薄すぎる。脆すぎる。

日が傾く頃、カノアが自分と同じ大きさの楔形石を見つけた。ユーディは梯子へ上がり、粘土を塗って穴へ差し込む。下からカノアが両腕を広げ、右、左、と指示した。

最後に木槌で一度だけ叩く。

とん。

要石は沈み、周囲の煉瓦を互いに押し支えた。手を離しても落ちない。窯の丸い天井が、そこで初めて一つにつながった。

弱い火を入れて乾かす。粘土から白い湯気が立ち、石の湿った匂いが消えていく。ユーディは旅袋に残った粉をこね、平たい生地を二枚作った。一枚は人の掌、もう一枚は石精の掌の大きさだ。

完成した窯へ入れると、火は穴から逃げず、天井に沿って丸く回った。二枚の生地が同時に膨らみ、焼ける音が小さな洞窟のように響く。

そこへ王国の白鷹が降りた。脚には、摂政就任を求める帰還書が結ばれていた。魔王亡き後、貴族たちが争い、ユーディに国をまとめてほしいという。

カノアが封書を持ち上げる。

「よむ?」

「あとで」

ユーディは先に窯の扉を開けた。熱風と、小麦の甘い匂いが夕空へあふれる。小さいほうのパンは縁が少し焦げ、大きいほうには要石の影が丸く映っていた。

二人は石台へ座り、それぞれのパンを割った。湯気が重なり、同じ高さまで昇る。

国を支えろと書かれた紙は、白鷹の脚についたままだった。

ユーディは焼きたてをかじり、カノアの口元についた粉を指で払った。

世界を救った日の宴より、一個の要石を自分たちで見つけた夕食のほうが、ずっと温かかった。

辺境の夜に最初に灯ったのは、王冠の光ではない。二人のためだけに完成した窯の、静かな赤い火だった。