最後の防御試験

世界が終わる日の朝、ティスカは最後の防御試験を受けていた。

合格すれば終末要塞の盾将。不合格なら、避難民を乗せた方舟は出航できない。彼女の背後には通信兵ゼノアスと、起動鍵を抱えた整備班が並んでいる。

ティスカは十二回の撤退戦で最後尾を務め、避難列を一度も欠けさせなかった。だが貴族の推薦状がないため、戦功欄は空白のまま。通信兵ゼノアスだけが、各戦場の記録を消さずに保存し、今日の審査卓へ届けていた。司令官は封も切らず、書類を灰皿へ落とした。

試験官は人間ではない。古代文明が残した戦闘機構《審判塔》だ。感情を持たず、候補者の防御値だけを測るはずだった。だが要塞司令部は、平民出身のティスカを落とすため、試験段階を一つ上へ書き換えていた。

《第一試験。都市消滅級》

ゼノアスが設定ミスを叫ぶ。ティスカは振り返らず、片手を後ろへ伸ばした。

「送信を続けて。全避難区へ、出航時刻を知らせるんだ」

整備班は装甲隔壁へ退避しようとしたが、ティスカは通信線の届く位置に残らせた。誰か一人でも方舟との接続を切れば、出航命令は届かない。彼女が前へ出たのは、わずか一歩だけだった。全員を背中へ収めるには、それで足りた。

審判塔の砲門が開く。白い光が地平を塗り、爆煙が要塞の外壁を越えた。観測室の司令官たちは、これで証拠も候補者も消えたと思った。

最初に異常を告げたのは審判塔自身だった。

《通過損害、零。背後対象、全員生存》

煙が晴れる。ティスカは片手を後ろへ伸ばした同じ姿勢で立ち、ゼノアスはその手に通信札を一枚載せていた。整備班の起動鍵も、背後の方舟も無傷。砲撃を受けた地面だけが、彼女を中心に巨大な円を残して消えている。

司令官は非常回線で命じた。

「第二段階を解放しろ。記録ごと消せ!」

《第二試験。大陸断裂級》

審判塔が一瞬だけ沈黙した。機械でさえ命令の異常を計算したのだ。それでも砲身は空を向き、落下する月片を標的へ導く。昼が影に沈み、衝突の光と煙が世界を覆った。

静寂のあと、ティスカは同じ姿勢で立っていた。ゼノアスは通信機へ最後の報告を送る。

「方舟各船へ。盾将認定を確認。出航してください」

審判塔の測定窓で数字が無限に増え、やがてすべての桁が消えた。

《防御値:測定不能》