最後の首は自分のもの
城に残る最後の処刑人オセロクの皮膚は、半分ほど木になっていた。
彼の斧で一人斬るたび、身体の一部が絞首台の木へ変わる。指から始まり、腕、肩、胸へ広がる。百人を斬れば処刑人自身が新しい処刑台となり、次の世代へ使われる。
今夜の囚人イヴェナは、城門を開けた反逆者だった。敵兵を招いたのではない。城内に閉じ込められた民を逃がすため、包囲軍との間に一刻だけ停戦を結んだ。
城主は民が逃げれば税も兵も失う。だから夜明け前に彼女を斬り、門を閉じ直すつもりだ。
「これで何人目?」とイヴェナが首枷の中で訊いた。
「九十九人目だ」
彼女を斬れば、オセロクは完全な木になる。城主はその身体を新しい断頭台へ据え、逃げた民を捕らえて処刑するだろう。
「私を斬らなければ、兵があなたを斬る」
「この斧でなければ、呪いは完成しない」
「なら逃げて」
オセロクの両脚はもう床板と同じ木目を持ち、速く歩けない。背後には兵が並び、城主が玉座から見下ろしている。開いた門の向こうでは、最後の避難民が橋を渡っていた。あと百呼吸あれば全員が出る。
城主が命じる。「執行せよ」
オセロクは斧を上げた。木の腕は軋むが、刃は軽い。
彼はイヴェナの縄を切った。
兵が殺到する。オセロクは斧を横に薙ぎ、最前列の槍を折った。だが木の胸へ矢が刺さり、火矢の油が染み込む。
「橋へ行け!」
イヴェナは動かない。「一緒に」
「私は百人目を選ぶ」
オセロクは斧の柄を床へ立て、刃へ自分の首を押し当てた。
処刑人が自らを斬れば、呪いは誰にも継がれず、これまで斬った九十八人の死が木の中から解放される。ただし魂も名も木目へ溶け、墓すら残らない。
城主が意図を悟り、止めろと叫ぶ。
オセロクは全体重を刃へ預けた。
乾いた音がした。首は落ちなかった。代わりに身体が根を張り、石床を割って巨大な樹へ変わる。枝が兵を押しのけ、城壁を貫き、開いた門の上へ橋のように伸びた。木の中から九十八人の声が湧き、避難民を導く。
イヴェナは最後の一人として枝を渡った。背後で城が崩れ、城主の命令は葉擦れに呑まれた。
夜明け、谷を塞ぐほどの黒い樹が立っていた。幹には百の顔が浮かび、最上部だけが空白だった。
イヴェナは樹皮へ手を当てる。
「オセロク」
名を呼ぶと、空白の部分に一瞬だけ処刑人の目が開いた。けれど次の風でそれも木目に戻り、彼を知る最後の証は、彼女の記憶の中だけになった。