最終シャトルの折り目

最終シャトルの発車まで十分。有馬周はホテルの車寄せで、古い乗車券を握っていた。

披露宴を出るとき、受付係から早乙女凪紗の預かり物だと白い封筒を渡された。中には六年前、このホテルと駅を結んでいた送迎バスの券。裏に凪紗の字で〈最後に一緒に帰って〉と書かれている。

六年前も、二人は同じ場所にいた。凪紗は友人の結婚式、周は出張帰り。喧嘩のあと、彼女は一人で最終便に乗り、周は追わなかった。翌朝届いた〈もう待たない〉が、別れの言葉になった。

今日、凪紗は別の男と結婚した。それでもこの券を今渡す意味は、一つしかないように思えた。周は帰る客を見送り、車寄せに残った。

発車まで五分。白いドレスから着替えた凪紗が、息を切らして現れた。

「待ってたの?」

「これを渡したのは、お前だろ」

券を見せると、凪紗の顔から色が引いた。

「違う。今日、待ってって意味じゃない」

「じゃあ何だよ」

「六年前、渡せなかったもの。受付には、説明を書いたカードも一緒に預けた」

二人で受付へ戻ろうとしたところへ、係員が走ってきた。封筒の内側に貼りつき、見落としていた小さなカードを持っている。

〈これは、あの日あなたへ渡せなかった切符です。返事はいりません。ただ、私は先に帰りたかったのではなく、一緒に帰る勇気がなかったと知ってください〉

周は券の折り目を開いた。端には二人分の座席番号が書かれている。凪紗は一人で乗ったのではない。二枚買い、隣を空けたまま駅まで帰っていた。

「どうして翌日、言わなかった」

「あなたから〈追わなくてよかった〉って届いたから」

「強がっただけだ」

「私も」

残り一分。式場の玄関で、新郎が凪紗を探している。六年前なら、周は空いた隣へ乗れた。今日のシャトルに、その席はない。

周は古い券を半分に折り、凪紗へ返した。

「今度は、待たせるなよ」

彼女が新郎のもとへ戻るのを見届け、最終シャトルへ乗った。扉が閉じる前に、連絡先の表示名を彼女の新しい名字へ変更した。