月曜を忘れる日曜夜
渡会梢と鳥越真弓は、日曜の夜だけ時間の話をしない。
翌朝の出勤時刻も、洗濯機を回す時間も、終電もなるべく見ない。
真弓が梢の部屋へ来て、床へ座り、何か食べながら眠くなるまで話す。
その日は、梢が袋麺を二つ買ってあった。
「日曜の夕飯として、どうなの」
「明日の弁当を豪華にする」
「順番が逆」
二人で葱を刻み、卵を落とした。
鍋から醤油と胡椒の匂いが上がり、窓硝子が白く曇る。
卓袱台へ鍋敷きを置き、丼を二つ並べた。
真弓は麺を柔らかめにし、梢は硬めが好きなので、同じ鍋なのに取り出す時刻を少しずらした。
「幼馴染の技術」
「袋の説明を無視する技術」
熱い麺をすすり、舌を少しやけどした。
食後は、動画配信の画面を開いたまま、何も選ばなかった。
見たい作品を探すだけで二十分。
「これ、昔見た」
「途中で寝た」
「じゃあ続き」
「どこまで見たか分からない」
結局、環境音の動画を流した。暖炉の火が画面の中で燃え、部屋には袋麺の現実的な匂いが残っている。
話したのは、梢が月曜の会議で発表する資料のことではなく、会社のエレベーターで毎朝会う人の靴がいつもきれいなこと。真弓の隣室から、日曜だけカレーの匂いがすること。子どもの頃、月曜の時間割を日曜の夜に写し忘れたこと。
「今も月曜の準備してない」
「成長してない」
「時間割がないだけ進歩」
真弓は少し前から、職場を辞めるか迷っていた。
その話題へ触れかけ、梢は「今日はやめよう」と言った。
「相談しに来たわけじゃないし」
「じゃあ何しに来たの」
「ラーメン」
「目的達成」
二人は同時に欠伸をした。
十時半、真弓は帰る気配を見せず、クッションへ横になった。
「終電」
「まだある」
「明日」
「まだ来てない」
梢は毛布を一枚投げた。
泊まるか帰るかも決めず、二人は暖炉動画の火を眺めた。
十一時を過ぎて、真弓はようやく起きた。
「帰る」
「泊まれば」
「化粧水がない」
「そこが境界線なんだ」
玄関で靴を履き、二人とも時計を見たが、時刻は口にしなかった。
真弓が帰ったあと、梢は丼を水につけた。
台所には醤油と葱、温かな麺の匂いが残る。床のクッションは真弓が寝た形にへこんでいた。
月曜はもう近くまで来ている。それでも日曜の最後に、何も決めない時間を二人で長く引き伸ばした分だけ、朝は少し遠く感じられた。