月曜日を裏返す

六十歳の誕生日は月曜日だった。

私は都市設計の会社を退職し、誰もいない部屋へ花束を持ち帰った。

若い頃、恋人から海辺の町で宿を始めようと誘われた。私は仕事を選び、別れた。その後も結婚せず、数え切れない建物を作った。

誇りはある。けれど退職証を机へ置くと、建物のない人生だけが急に広く見えた。

卓上カレンダーの月曜日を裏返すと、私は海辺の宿の台所にいた。

そこでは誘いを受けた私が、朝食の皿を洗っていた。

恋人は年を取り、庭でシーツを干している。壁には二人の旅行写真、宿泊客からの葉書、修繕費の請求書。

選ばなかった暮らしが、潮の匂いを立てて目の前にあった。

鏡を見ると、向こうの私の服を着ていた。

同じ頃、彼女は私の都会の部屋へ移ったらしい。

月曜日が終わるまで、二人の人生が入れ替わったのだと分かった。

私は宿の仕事をした。

客に朝食を出し、詰まった排水管を直し、恋人と買い出しへ行く。

彼は私を妻だと思い、昨夜の喧嘩の続きを始めた。

「また改装を先延ばしにするのか」

私は事情を話せず、ただ謝った。

愛のある暮らしにも、同じ話を何度も繰り返す疲れがあった。

午後、物置で設計図を見つけた。

向こうの私は、宿を増築する案を何十年も描いていた。どれも未完成。

余白に、

「一度でいいから、大きな建物を作りたかった」

と書かれている。

その頃、私のスマートフォンへ会社の同僚からメッセージが届いた。

「今日のあなた、会議室の模型を見て泣いていました」

向こうの私も、私の人生を歩いていた。

夕方、海辺で恋人と並んだ。

彼は急に言った。

「選ばなかった仕事のこと、まだ考える?」

私は正直に「考える」と答えた。

彼は怒らず、「私も、一人で別の町へ行った人生を考える」と言った。

長く一緒にいた二人は、選び合ったあとも別の道を想像していた。

真夜中、カレンダーの月曜日が風でめくれた。

私は都会の部屋へ戻った。

机の上には、向こうの私が書いた紙がある。

「あなたの人生は、私の人生の代金ではありません」

私はその下へ返事を書いた。

「そちらも」

紙は朝になると白くなった。

退職後、私は海辺の町へ行った。

恋人だった人の宿を訪ねるためではない。実際の彼がどこで暮らしているかも知らない。

町の空き倉庫を、若い人が仕事と生活を分け合える場所へ改装する計画に参加した。

完成した建物の窓から、海が見えた。

宿ではなく、会社でもない。

二つの月曜日のどちらにもなかった場所だった。

選ばなかった人生は、今の人生を裁く判決ではない。

ときどき遠くから灯りを見せ、まだ選べる道があることを教える、小さな隣町なのだ。