未使用につき返却
「使っていない品を前の持ち主へ戻す《返品》? 商店の小間使いだ。無能」
帝都ギルドの鑑定台で、マオルは冒険者証を発行されなかった。
《スキル:返品――未使用の品を、最後に所有していた者の手元へ戻す》
買い間違いには便利でも、剣は一度振れば使用済み、薬は封を切れば対象外。マオルは皇帝の式典へ運ぶ贈答品の検品係に回された。
そこでマオルは、品物の価値より先に所有者と使用歴を確かめる癖をつけた。豪華な箱でも一度使われれば返せず、危険な品でも未使用なら戻せる。能力が見るのは善悪ではなく、取引の順序だけだった。
戴冠記念日、友好国の使節が黒水晶を献上した。
箱が玉座の前で開いた瞬間、水晶から紫の球が浮かぶ。使節の皮膚が崩れ、中から敵国の呪術師が笑った。
「皇帝を殺す《滅国呪》だ。触れた者だけでなく、その血族と領土を腐らせる!」
近衛の結界は球を止められない。呪いはまだ誰にも触れていないため、形も重さもなく、ただ皇帝ネブラントへゆっくり進む。
魔導師たちは解除を試すが、術式に手を入れた瞬間、発動が早まると分かった。
「陛下を連れて退避を!」
「領土を追う呪いから、どこへ逃げる」
皇帝が剣を抜く。
検品係のマオルは、贈答品台帳を見た。黒水晶の所有者は献上によって皇帝へ移った。だが紫の球そのものは、今、呪術師が作り出し、放ったばかりだ。
そして呪いは、まだ対象へ届いていない。
一度も“使用”されていない。
マオルは紫の球へ検品札を貼った。
「商品名、滅国呪。未使用、返品理由は――帝都では取り扱えません」
「《返品》」
球が消えた。
次の瞬間、呪術師の両手の間へ戻る。最後の所有者、作り手の手元へ。
呪術師が目を見開いたときには、紫がその腕を這い上がっていた。血族も領土も持たぬ彼の身体だけが黒く崩れ、床へ灰となる。
沈黙の中、皇帝ネブラントは玉座から降りた。
マオルの検品札を剥がし、自分の冒険者証へ皇帝印を押して手渡す。
「帝国を滅ぼす呪いを、不良品として送り返したか。商店の小間使いでは惜しい。今日より、帝国に届く災厄すべての受領判定をお前に任せる」