未着通知

廿楽透哉のスマホには、三年前に失踪した友人とのグループチャットが残っていた。最後の投稿は一行だけだった。

《未着駅で「到着しました」と表示されても、電車を降りてはいけない。俺がホームにいてもだ》

友人が消えた夜の送信だった。

透哉は何度も同じ路線に乗ったが、未着駅は現れなかった。諦めかけた今年の命日、終電の車内表示が突然変わった。

《未着駅に到着しました》

扉が開く。

ホームに友人が立っていた。三年前と同じパーカー姿で、痩せても老けてもいない。口は「降りるな」と動いているのに、手は助けを求めるように伸びていた。

透哉は古いチャットを開いた。

【透哉】

今、未着駅にいる

お前が見える

既読が一つ付いた。

【友人】

降りるな

ホームにいるのは、着いたことにされた俺だ

扉の警告音が鳴る。友人の背後には、行方不明者の顔が駅員のように並んでいた。

透哉は三年間の後悔に負けた。友人の腕をつかめば二人で戻れると思い、一度だけホームへ足を下ろした。

扉は即座に閉まり、電車は走り去った。

照明が消えた。隣にいた友人も消えた。チャットには新しい投稿だけが残る。

【友人】

やっと帰れる

ありがとう

透哉は非常口を見つけ、階段を上った。扉の先は自分のマンションの廊下だった。部屋へ入ると、家具も鍵もいつもどおりで、時計は終電から十分しか進んでいない。

助かったのだと思った。

だが、スマホのWi-Fi表示は自宅回線ではなく《未着駅_1番線》につながっていた。地図の現在地はマンション。窓の外にも見慣れた街がある。

母からメッセージが来た。

《もう家に着いた?》

透哉が「着いた」と入力すると、送信前に車内チャイムが鳴った。

スマホが勝手に返信した。

《到着しました》

既読が付く。同時に、玄関の向こうから母の声がした。

「透哉、開けて。迎えに来たよ」

母は遠い実家にいるはずだった。

ドアスコープを覗くと、マンションの廊下ではなく、未着駅のホームが見えた。母の声は誰もいないベンチの下から聞こえる。

スマホに最後の通知が出た。

《廿楽透哉さんの降車を確認しました》

グループチャットでは、三年前に消えた友人が「ただいま」と投稿していた。