来年のサイズ
被服室の前に、「冬服お直し受付」と書かれた箱が置かれた。
夏服へ替わったばかりなのに、もう次の冬の準備をするらしい。
用紙には、袖丈、肩幅、希望する直し方。
親友は自分のブレザーを机へ広げ、袖を測った。
「来年、もう一センチ伸びるかな」
「高校生で?」
「夢が」
親友は美術大学へ行きたい。私は地元の就職を考えている。
進路希望を出してから、互いに未来の話を避けていた。親友の夢は遠く、私の選択は近い。比べると、どちらかが小さく見えそうだった。
「袖、二センチ出す」
親友は用紙に書いた。
「伸びなかったら余るよ」
「余ったら折る」
私のブレザーは今のままでちょうどいい。直し欄へ『なし』と書こうとして、手が止まった。
来年も同じ体、同じ考え、同じ町にいると決めつけるようで嫌だった。
「就職、決めたの?」
親友が聞いた。
「たぶん」
「行きたい会社?」
「家から通える会社」
親友は責めなかった。
代わりに、メジャーを私の肩へ当てた。
「今のサイズは測れる。でも、来年の自分は測れないね」
被服室の窓から、夏の風が入った。白いシャツの袖が揺れる。
私は用紙の直し欄へ、『未定』と書いた。
先生に出すと、
「未定では直せない」
と返された。
「じゃあ、秋にもう一度考えます」
初めて、自分から期限を延ばした。
帰り道、親友は東京の予備校のパンフレットを見せた。私は、県内だけでなく隣県の求人票も見ると話した。
選ぶ道は違うままだった。
でも、近いか遠いかだけで夢の大きさを決めるのをやめた。
秋、ブレザーを着ると、私の肩は少しきつくなっていた。
体が伸びたのか、姿勢が変わったのか分からない。
私は袖を一センチ出してもらった。
親友の二センチは少し余り、本人は笑って折り返した。
来年のサイズを当てることはできなかった。
それでよかった。
成長の予感とは、正確に未来を測ることではなく、今の形に縫い止めないことなのだと思う。
翌春、箱の中には『未定』と書いた古い用紙が残っていた。私は捨てずに持っていった。未来へ持参するには、いちばん正直な寸法だった。