来年最初に会う人

「誕生日を最初に祝うのは、友達の役目」

青山紬希が二十歳になった夜、鷹野郁人は零時ちょうどに電話をくれた。

それから八年、遠くにいても、恋人がいてもいなくても、その役目だけは郁人のものだった。電話のあとに二人でケーキを食べる年もあれば、短いメッセージだけの年もある。それでも零時一分までに、必ず《おめでとう》が届いた。

二十八歳の誕生日を前に、郁人が言った。

「今年で最後にしよう」

互いに友達のまま甘え続ければ、新しい関係へ進めない。共通の友人にそう言われたらしい。紬希も正しいと思い、「分かった」と返した。

誕生日当日、二十三時五十八分。スマホは静かだった。

二十三時五十九分、玄関のチャイムが鳴る。

扉の前に郁人がいた。小さなケーキと、火のついていないろうそくを持っている。時計が零時になる。

「おめでとう、紬希」

最後の役目を果たしに来たような顔だった。

紬希はケーキを受け取らず、郁人の手首をつかんで部屋へ引き入れた。テーブルには、さっきまで一人で食べるつもりだった料理が二人分並んでいる。

さらに壁のカレンダーには、来月の郁人の誕生日、春の花見、夏の旅行、来年の今日まで、二人の予定が書き込まれていた。

「最後にするなら、ここまで全部消して」

紬希がペンを渡すと、郁人は受け取らなかった。代わりに一番近い来月の予定へ自分の名前を書き、その次へ紬希の名前を足す。来年の誕生日には、《最初に会う》と記した。

「友達の役目は、今日で最後」

郁人はそう言い、紬希の手を取った。ろうそくへ火をつける間も、吹き消す間も、指をほどかない。

紬希はスマホの連絡先《鷹野郁人/親友》から《親友》を消し、《郁人》だけにする。彼の予定表へ一年分の写真を送り、共有を承認させた。

「来年も零時に来る?」

「その前からいる」

郁人が名前で呼び返す。紬希はつないだ手をケーキの箱の上へ置き、二人で最初の一切れを切った。

誕生日を最初に祝うのは友達の役目だった。

その役目を終えた夜、郁人は来年最初に会う人として、紬希の隣に残った。