次のプロジェクト

「次のプロジェクトで、また」

梶原祐介は、解散するメンバー一人ずつに同じ言葉をかけた。

半年限定の新商品チーム。筒井彩葉と梶原は、毎日隣の席で企画を練り、試作品を分け、終電前のコンビニまで歩いた。けれどプロジェクトが終われば、二人は別の部署へ戻る。

「また」は社交辞令だ。彩葉はそう言い聞かせた。

最終日の打ち上げが終わり、会議室には二人だけが残った。壁のホワイトボードには、完了した工程表。すべての付箋に大きなチェックがついている。

「片づけますね」

彩葉が付箋を剥がそうとすると、梶原が止めた。

「一つ、未完了があります」

「全部終わりました」

「業務は」

彼は工程表の下に、新しい付箋を三枚貼った。

〈土曜十一時 水族館〉

〈十三時 昼食〉

〈その後 次の予定を決める〉

担当者欄には〈梶原・筒井〉。期限は〈継続〉。会社の書式をそのまま使っているのに、どこにも案件番号がない。

「これは次のプロジェクトですか」

「僕はそのつもりです。ただ、筒井さんが参加しないと開始できません」

梶原はペンを彩葉へ渡した。冗談に逃げない顔で、彼女の判断を待っている。

彩葉は工程表の見出し〈次期プロジェクト〉へ二重線を引いた。その横に、〈二人の予定〉と書き直す。担当者欄の名字も消し、〈祐介・彩葉〉へ変えた。

「これなら参加します」

「承認は?」

「口頭では不足ですか」

彩葉は自分の名前の横へ丸をつけ、ペンを置いた。梶原が伸ばした手を、握手ではなく指を絡める形で取る。

会議室を出るとき、彼は照明を消した。暗いガラスに、手をつないだ二人が映る。プロジェクト中なら離したはずなのに、もうその必要はなかった。

エレベーター前で、梶原が笑う。

「次のプロジェクトで、また」

「違います」

「では?」

「次の土曜日に。また、ではなく一緒に」

扉が開く。二人は同じ階で降り、同じ方向へ歩き出した。

皆に向けた別れの挨拶だった言葉は、最後に一人だけへ残す約束になった。