次の雨まで

商店街の共同傘立てで、伏屋あまねの古い青傘が、色とりどりの継ぎはぎ傘に取り替わっていた。

青傘は高校時代から十年使っている。布は日に焼け、端には小さな穴が三つ。閉じたときの癖まで、商店街の人には知られていた。それでも、雨に困る客へ何度も貸し、自分は店の軒下を走って帰った。

午前中、傘立てへ触れたのは、茶舗の芹沢葉子、郵便配達の鳥羽道彦、文具店の娘・奥平みのり。鳥羽は荷物を届け、みのりは店先へ雨の日の絵を描いた。葉子は「知らないよ」と急須を洗っている。

継ぎはぎ傘の持ち手には、見覚えのある小さな刃物傷。赤い布の縫い目から、青い糸が一本のぞいている。歩道に描かれたみのりの白い矢印は、茶舗の裏口へ続いていた。

あまねは傘を開いた。花柄、格子、紺の無地、パン屋の包装布に似た薄茶色。布は別物なのに、骨の一本だけ少し内側へ曲がる癖まで、自分の青傘と同じだった。

取り替えられたのではない。継ぎはぎ傘そのものが、あまねの傘だった。

裏口では、葉子が外した青い布を畳んでいた。穴が広がり、次の風で裂ける寸前だったという。

「新しい傘を買えって言っても、まだ使えるって聞かないだろ」

葉子は商店街の店から、丈夫な端切れを少しずつ集めた。鳥羽は骨を調整し、みのりは布の組み合わせを選んだ。作業中に雨が降り、代わりの青傘を傘立てへ置くつもりが、完成した継ぎはぎ傘を先に置いてしまった。

「どうして、そこまで」

「この通りで、その傘に入ったことがない人のほうが少ないからだよ」

あまねは覚えていなかった。買い物袋を抱えた人、杖をついた人、泣いていた子ども。一本の傘で送った相手を数えたことなどない。

葉子は湯飲みに焙じ茶を注いだ。

「今度は、あんたが入る番」

外では雨が細くなっていた。あまねは継ぎはぎ傘をゆっくり開き、軒先に立つ。色の違う布を透かして、雨空まで少し明るく見えた。

茶を一口飲み、あまねは笑った。

「じゃあ、次の雨もここにいます」