正午銅島は時計を止める

時島クオンの島では、正午になると崖が銅の延べ棒を三本吐き出す。

一分早くも遅くもない。石の亀が延べ棒を背負い、港の自動秤へ運び、時計職人組合が定価で買う。売上は島の灯台費とクオンの生活費へ分配される。三本以上は出ないが、一人が穏やかに暮らすには足りた。

クオンは中央時計院で、時間に追われていた。

灰青の制服は作業台で肘が擦り切れ、胸には秒単位の工程札が何枚も縫いつけられている。大時計が一秒遅れるたび緊急集合。食事も睡眠も「修理後」に回され、退職した後まで旧院の鐘型端末が鳴り続けた。

島へ来て最初の正午、崖が低く鳴り、銅が三本転がり出た。

〈本日分の銅材、売却完了。生活費口座へ入金しました〉

通知の時刻は十二時零分。だがクオンは、何秒だったか確かめなかった。

島の仕組みは正確だが、正午以外の時刻を何にも使わない。銅が出た後、石亀は翌日まで眠り、秤も港も静まる。クオンは家の壁時計を外し、窓の影と腹の空き具合だけで暮らしてみた。昼食が遅れても誰も困らず、夕方の散歩が長くても工程は乱れない。時間を守るのではなく、時間に守られる感覚を、彼は初めて知った。

鐘型端末が激しく震える。

『中央大時計が止まった! クオン、直ちに戻れ!』

元院長の声だった。

「止まったなら、皆も少し休めますね」

『国家の時刻が狂うんだぞ。特別報酬を出す。お前しか主軸を扱えない』

「手順書を残しました」

『読むよりお前を呼ぶほうが早い』

クオンは端末の針を見た。いつもなら、その言葉で走った。早いことが正しく、止まることは罪だと思わされていた。

「だから、もう呼ばれても行きません」

『金が要らないのか』

「今日の三本で足ります。足りないのは、時計を見ない午後です」

通話を終え、鐘型端末のぜんまいを抜く。領地通知も翌日の正午まで停止した。

石亀は港から戻り、日向で首を甲羅へしまった。クオンも二本の木の間の寝網へ横になる。

中央大時計が動いたかどうかは知らない。島の正午はもう稼ぎ終えた。クオンは針のない空を見上げ、そのまま昼寝を始めた。