正解より先に鐘を鳴らす

「最後の質問です。あなたは、なぜこの学院へ入りたいのですか」

 王立総合学院の面接官が、欠けた万年筆を指で回した。

 千景はこの質問を知っている。前の人生では、用意した模範解答を述べた。

「国に仕え、人々の役に立つためです」

 面接官は満足げに頷いた。それでも不合格だった。後に学院の事務員となった千景は、合否が面接前から寄付額で決まっていたと知る。庶民枠の答案は採点されず、地下焼却炉へ送られていた。

 そして十七年後、学院の不正を告発する直前に殺された。

 目を開けると、欠けた万年筆がまた回っている。

「なぜ入りたいのですか」

 前と同じ問い。

 前の千景は模範解答を繰り返した。

 今度は椅子から立った。

「入るためではありません。この試験を、試験に戻すためです」

 面接官の筆が止まる。

「意味が分からないな」

「庶民枠の答案は採点室へ行かない。廊下の青い箱から、地下焼却炉へ直送されます」

「根拠のない侮辱は――」

「根拠なら、今から届きます」

 千景は机の欠けた万年筆を取った。前の人生で事務員として使い続けた備品だ。軸の割れ目には、焼却炉の非常鐘と同じ共鳴石が埋め込まれている。筆尻を三回、机へ打ちつける。

 カン、カン、カン。

 地下から警報が響いた。

 同時に面接室の壁が透け、魔力投影で焼却炉の内部が映る。青い箱から落ちたばかりの答案束が炎の手前で停止していた。表紙には今日の日付。まだ採点時刻前だ。

 面接官が立ち上がり、投影を消そうとする。

 だが廊下の受験生も教師も、全員が映像を見ていた。学院長が駆け込み、答案束を転送魔法で引き上げる。

「これは誰の指示だ」

 面接官は答えない。欠けた万年筆だけが、彼の手から床へ落ちた。

 千景の答案も束の一番上にある。学院長がその場で封を切り、最初の頁を読む。採点用の魔法陣が白く光り、満点を示した。

 前の人生では夕方、端末へ必ず届いた不合格通知。その時刻を待たず、千景の受験票が金色へ変わる。

【筆記首席/面接再審免除/特待合格】

 学院長は、面接官ではなく千景へ最後の質問をした。

「入学後、最初に何を変える?」

 それは前の人生にはなかった問いだった。