比べない夜

早苗が企画した女子会には、一つだけ規則があった。

仕事、恋人、収入、容姿を比べないこと。

六人は最近ぎくしゃくしていた。誰かが昇進を報告すれば沈黙が生まれ、結婚式の写真を送れば嫌味が返る。早苗はずっと、皆のマウンティングに疲れていた。だから席札の裏へ「今夜、言われたくない言葉」を書かせ、スマートフォンは封筒へ入れて預かった。

「ここでは、誰も順位をつけないで」

皆が頷いた。

ただ、席札の表には小さな数字が印刷されていた。早苗は店員の配膳番号だと説明した。もう一つ、封筒へ入れなかった自分の端末だけ、テーブルの中央で録音ランプが点いていた。記念用の音声だと言うと、誰も気にしなかった。

食事が進むにつれ、皆は本音を話した。昇進したすみれは、実力ではなく上司との関係を疑われるのが怖い。婚約した友人は、幸せ自慢と思われて報告できなかった。転職活動中の友人は、早苗から「焦らなくていい」と言われるたび、見下されている気がしたと告げた。

早苗は一人ずつ抱きしめた。

「誤解だよ。私は皆が羨ましいだけ」

場が和み、最後に席札を燃やすことになった。店の小さな暖炉へ投げる前、すみれが裏面を見た。

言われたくない言葉の下に、別の筆跡で点数が書かれていた。

〈容姿・八、仕事・九、恋愛・六〉

〈容姿・五、仕事・四、恋愛・十〉

六人全員に順位がある。早苗の席札だけ、すべて十だった。

「これ、何?」

早苗は余興だと笑った。比べることのばかばかしさを見せたかった。点数は匿名アンケートの平均で、自分が満点なのは幹事だから仮に置いただけだ。

けれど誰もアンケートを受けていなかった。

すみれが預けた端末を取り戻すと、グループチャットの過去ログを開いた。早苗は一人ずつ別の個別チャットで、他の五人が何と言っていたかを教えていた。

〈すみれの昇進、みんな少し疑ってる〉

〈あの結婚写真、正直きついって言われてたよ〉

〈あなたのために、私だけは本当の評価を伝えるね〉

六人がぎくしゃくした時期と、最初のメッセージの日付は同じだった。

早苗は泣いた。自分だけ何も報告できるものがなく、皆に置いていかれる気がした。比べさせておけば、誰かが必ず自分を頼った。

誰も責めず、会計を六等分して帰った。早苗の分だけ、テーブルに残された。

深夜、録音データが全員へ自動送信された。

件名は〈比べない夜・最終順位〉

添付された集計表では、孤独の点数だけが、早苗を除いてすべてゼロだった。