焦げ跡の下の身長線
真壁暢也と孝臣は、火事で焦げた食卓を直していた。
火元は隣家で、二人の家は台所だけが焼けた。保険の調査が終わるまで戻れず、今は別々の仮住まいにいる。
孝臣は暢也が七歳から暮らした養育家庭の父親だ。成人後、暢也は実父を探しに出て、見つけた男から金を貸してほしいと言われた。孝臣に止められたが聞かず、貯金を失った。帰る顔がなく、三年間連絡を断っていた。
食卓の表面は黒く、片側の脚が割れている。
「捨てて新しいのを買おう」と暢也が言う。
「天板は生きてる」
「端が炭だ」
「削れば木が出る」
二人は仮設倉庫で紙やすりをかけた。荒い番手から細かい番手へ替え、暢也が削り、孝臣が粉を払った。黒い粉が服や髪へ付く。最初は焦げ臭かったが、削るうちに乾いた木の匂いが戻った。
脚は同じ材がなく、孝臣が物置から別の机の脚を持ってきた。形も色も違う。
「一本だけ変だ」
「立てばいい」
「そういう直し方、嫌いだった」
「知ってる。お前は揃ってないと飯を食わなかった」
暢也は幼いころ、他人の家の食器を使うのが怖かった。孝臣は一枚ずつ違う皿を買い、どれを使ってもいいようにした。そのことを、今まで礼だと思ったことはない。
新しい脚を金具で留め、食卓を起こす。少し傾いた。暢也が薄い木片を挟むと、ようやく安定した。
天板の裏には、鉛筆の線が何本も残っていた。暢也の身長を測った跡だ。最後は十八歳、百七十四センチ。
「火で消えなかったな」と孝臣が言う。
「裏だから」
「見えない所は、案外残る」
保険で家が直るか、同じ場所へ戻れるかはまだ決まっていない。孝臣は食卓を倉庫に置くと言った。
暢也は工具箱から鉛筆を出し、古い線の横に今日の日付を書いた。身長は測らず、〈仮住まい二号室へ〉と添える。
「狭いぞ」と孝臣が言う。
「二人で使う間だけ」
二人で食卓を軽トラックへ載せた。暢也は自分の仮住まいへ戻る鞄も、荷台の隅へ置いた。
食卓を運び込んだら、まず二人分の夕食を買う。家が直るまでの予定表には、暢也の帰宅時刻を書く欄が一つ増えることになった。