王が磨かせた真実の鏡
王国裁判の壇上で、ローデリック王は妃イネスを指さした。
「王妃は夜ごと密会している。貞節を失った女に王冠は渡せぬ」
傍らには寵姫ヴァネッサが座り、すでに王妃の青い外套を羽織っていた。イネスが王と寵姫の関係を問うた翌日、逆に不貞の嫌疑をかけられたのだ。廷臣たちは、王妃が泣いて慈悲を請う場面を見るために集められていた。王は有罪判決の後、その場でヴァネッサへ王冠を渡すつもりだった。
「証拠をお見せしよう」
王が布を取ると、巨大な《真実の鏡》が現れた。王妃を監視するため、彼が全宮殿へ設置させた魔具である。寝室へ入った人物の姿と時刻を一年間保存し、王命でも消せない。ローデリックはその仕様書へ自ら署名していた。
鏡に王妃の寝室が映る。
一年分の夜が高速で流れた。入ったのは侍女と医師だけ。密会相手など一人もいない。
「記録が抜かれている!」
「では、全王族の寝室を同じ条件で」
イネスは静かに言った。王は拒もうとしたが、監視命令には《疑義が生じた場合、王を含む全契約者の記録を公開する》とある。王妃だけを逃がさぬため、ローデリック自身が加えた条項だった。
鏡面が王の寝室へ切り替わる。
毎夜、ヴァネッサが裏扉から入り、夜明け前に出ていく。日付は二人が「関係は昨日始まった」と証言したより十一か月も前だった。
映像の中で、王が笑う。
『イネスを不貞で追放すれば、反対派の領地も没収できる。おまえを王妃にしてやろう』
『鏡は大丈夫?』
『私の命令で王妃の部屋だけ映す。署名など誰も読まぬ』
法廷の全員が、その署名を見ていた。
ローデリックは剣を抜き、鏡へ振り下ろした。刃が触れる前に鏡は赤く光り、《契約者による証拠破壊》を記録する。近衛兵たちは王ではなく、王妃の前へ盾を並べた。
イネスは奪われた外套を求めなかった。自分の王冠を卓上から取り、まっすぐ戴く。
評議会議長が立ち上がり、王国基本令を開いた。
「ローデリックの王位剥奪、ならびにヴァネッサと共謀した王妃誣告に対する逮捕命令を読み上げる」