王冠より先に聞く返事

社交季の開幕舞踏会で、ミレシアの席は窓辺に置かれていた。

人混みの中央では息苦しくなる彼女のため、皇帝オーレンが出口と庭の両方が見える場所を選ばせたのだ。杯には酒ではなく、酸味の弱い梨水が入っている。

「冷えすぎていないか」

「ちょうどいいです」

オーレンは反乱貴族を全員追放した恐怖の皇帝で、誰の好みも気にしない。だがミレシアが冷たい飲み物で歯を痛めることだけは、給仕より先に覚えていた。

真夜中、楽団が突然止まった。

宰相が金の箱を運び、広間の中央で開く。中には皇后冠が輝いていた。

「皇帝陛下より、ミレシア嬢へ。今夜ここに皇后冊立を――」

ミレシアは立ち上がらなかった。

「聞いていません」

宰相は微笑む。

「驚かせるためでございます。陛下がこれほど大切になさるのですから、答えは一つでしょう」

全視線が集まる。オーレンが彼女を望んでいることは知っていた。自分も彼を大切に思う。けれど、千人の前で断れない形にされた返事は、自分の返事ではない。

「今日は受け取りません」

広間が凍る。

宰相は声を潜めた。

「陛下の御威光を傷つけますぞ」

オーレンが冠の箱を閉じた。

「傷つかない」

「しかし帝国中へ発表の準備が」

「止めろ」

皇帝はミレシアへ歩み寄ったが、手を取らず、窓辺から庭へ出る道を空けた。

「今夜、ここに残るか。帰るか」

「庭を一周してから帰りたいです」

「そうしよう」

宰相が皇統の安定を持ち出す。

「陛下ご自身は、彼女を皇后に望まれないのですか」

「望む」

オーレンは明言した。

「だが余の望みを、逃げ場のない舞台へ変えた者を許さない」

彼は皇后冠を宝物庫へ戻させ、冊立予定日を白紙にした。

庭の扉が開く。ミレシアが自分で外へ踏み出すと、皇帝は半歩後ろを歩いた。

庭へ出る前、ミレシアは尋ねた。

「受け取らなくて、陛下は失望しましたか」

「した」

皇帝は正直に答えた。

「だが失望は余のものだ。おまえが王冠を被って慰める義務はない」

欲望を隠さず、それでも選択を奪わない言葉だった。

「記録せよ。ミレシアは今夜、何も承諾していない。余の隣席は空けておくが、座る日も、座らない未来も、彼女が選ぶ」