王冠を置く手

戴冠前夜祭の大広間で、クレシダ・アーヴェルは偽王族と呼ばれた。

「君は亡き王妹の娘を名乗り、王位継承権を得ようとした」

 皇太子ロドリクは、婚約者へ剣先を向ける。隣のパルミラが、銀の家系図を抱えていた。

「本物の王妹殿下のお子は、幼くして亡くなったはずです。クレシダ様は婚約を利用し、王冠を奪うおつもりです」

「王家を欺いた罪により婚約を破棄する。身分も領地も没収だ」

 クレシダは剣を見ず、玉座の脇に置かれた古い王冠を見た。

「告発は、わたくしが王妹の血を偽ったという一点ですね」

「家系図が証明している」

「紙ではなく、王冠に確かめていただきます」

 沈黙していた皇太后ウルディアが立ち上がった。老いた手で王冠から、一つの紅玉を外す。

 初代女王の《継承石》。直系の血を持つ者が触れれば、過去の名を一人だけ光で示す。偽者なら砕ける。

 ウルディアは石をクレシダへ差し出した。

「触れるか。砕ければ、私は庇えぬ」

「承知しております」

 クレシダが指を置く。

 紅玉は割れず、広間いっぱいに一つの名を描いた。

 王妹アスレナ――クレシダの母。

 偽造だと決めつけていた広間から、いまは誰一人として声が出ない。

 パルミラの手から家系図が落ちた。銀の紙は、紅玉が描いた母の名の前で、ただの薄い飾りになった。

 ロドリクは剣を下ろし、急に笑みを作る。

「クレシダ、これで君の血は証明された。なおさら私との婚姻が必要だ。婚約破棄は撤回する。二人で王家を」

「いいえ」

 彼女は王冠へ手を伸ばさなかった。血が証明された瞬間に王冠へ飛びつけば、今夜まで彼女を支えた誇りまで、継承権のためだったことにされる。

「わたくしを偽者として捨て、王族と分かれば拾う方に、国を預けるつもりはありません」

 ウルディアが壇を下り、何も握っていない手を差し出した。

「王冠を取るか、捨てるか。次はあなた自身が決めなさい」

 クレシダはロドリクに背を向け、まず皇太后の手を取った。