王国より先に煮えるもの
退位した女王オフィーリアが、最後に望んだ褒美は辺境の捨て農地だった。
大臣たちは冗談だと思った。だが彼女は王冠を置き、護衛も断り、種芋一袋だけを馬車へ積んだ。
初日、広すぎる畑の前で立ち尽くしかけた。
国なら地図を広げ、役人を集め、十年計画を作っただろう。けれど今日は、自分の両腕しかない。
オフィーリアは縄を十歩伸ばした。
その一列へ鍬を入れる。土は硬く、王笏より鍬のほうが重かった。靴は泥だらけになり、掌には豆ができた。それでも夕方までに、種芋を七つ並べて埋めた。
七つの種芋は、芽の向きを確かめて置いた。王宮では、何かを植えるにも書類と予算と担当部署が必要だった。ここでは穴を掘り、芋を置き、土を戻せばよい。あまりの単純さに、三つ目を埋めたところで笑いが出た。四つ目からは、王命の署名をするより慎重に土をかぶせた。最後に畝の両端へ白い石を置く。国境線ではなく、明日どこから続きを始めるかを示す印だった。
最後の土をかぶせたとき、王都の旗を掲げた馬車が着いた。
宰相が息を切らして降りてくる。
「陛下、摂政会議が決裂しました。国境交渉も止まっています。どうかお戻りください」
「私はもう陛下ではありません」
「国民が必要としております。こちらに全員署名済みの復位請願を」
分厚い封書だった。かつてなら、その場で開き、夜を徹して返答を書いただろう。
オフィーリアは受け取ったが、封を切らなかった。
小屋の炉では、植えずに残した小さな芋二つが鍋で煮えている。山羊乳と野葱を加えたスープが、ことこと蓋を揺らした。
「重要な案件です」と宰相が言う。
「ええ。ですから、空腹のまま決めません」
彼女は封書を卓へ置き、木椀へスープを注いだ。白い湯気が顔を包み、土仕事で冷えた指が椀の熱を吸い込む。
宰相はまだ立っている。
オフィーリアは向かいの椅子を顎で示した。
「話すなら、まず食べなさい。王国は何度も煮詰め直せますが、芋は今が一番おいしい」
宰相が恐る恐る座る。
女王として何千人もの夕食を後回しにしてきた彼女は、その夜初めて、自分の一椀が冷める前に匙を入れた。