王様に出さない料理
「完成した料理から、指定した材料を一つ抜き取るだけ? 最初から入れなければよい。無能だ」
皇宮料理人の最終試験で、キサラは落第を告げられた。
【固有技能:《一材抜き》――完成した一皿から、名を指定した材料一種だけを味や形を崩さず取り除く】
未知の毒は指定できず、料理を豪華にもできない。皇帝ザフェンは「好き嫌い係なら子供部屋へ行け」と言った。
その夜、和平使節として獣王一族が到着した。彼らは月胡桃を口にすると喉が閉じる体質を持つ。皇宮は月胡桃油を日常的に使っており、鍋、匙、まな板にまで微量が残っていた。料理長は「目に見えぬ量なら問題ない」と宴を強行する。だが獣王の弟は以前、匙に残った一滴で倒れたという。もし皇宮で同じことが起きれば、和平は破談どころか毒殺と見なされ、国境の軍が動く。
キサラは前世で、アレルギーは量の大小で侮れないと知っていた。彼女は献立を一つの豪華皿にせず、共通の澄まし汁、焼き肉、穀物、香味だれを別々に用意した。器具も色札で分け、月胡桃を使う区画と使わない区画を離す。客ごとに組み合わせる方式なら、禁忌が違っても同じ食卓を囲める。
配膳直前、料理長が面子を守るため、獣王の皿へ従来の艶出し油を塗った。
キサラが気づいたのは、月胡桃特有の甘い匂いだった。《一材抜き》を使うと、透明な油だけが皿の上から消え、小さな琥珀色の滴となって彼女の掌へ集まった。
「料理を汚した証拠はない」と料理長が言う。
キサラは同じ匙を使った皇帝の皿からも月胡桃を抜いた。掌の滴が二倍になる。宴席が静まり、衛兵が料理長を拘束した。
獣王は安全な皿を食べ、初めて人間の皇帝と同じ卓で杯を交わした。料理は各人で少し違うのに、基礎の味は同じだった。
ザフェンは落第札を裂いた。
「材料を抜くだけの無能と思った」
皇帝はキサラへ皇宮厨房の赤と青、二本の鍵を渡した。
「違う。おまえは王に出さない料理を作ったのではない。誰も食卓から外さない料理を作ったのだ」