王法を超える署名

王城の公開法廷で、ラングレア・ヴァイス大公は、農地争いの被告席へ座ることさえ拒んだ。

「私を裁く席など、この国にはない」

訴えたのは農夫の娘エルシェ・ナトだった。大公は彼女の村を狩猟地にするため、収穫前の畑を兵で囲み、父を反逆者として牢へ入れた。

宰相が証拠の提示を求めると、ラングレアは一枚の処罰命令書を投げる。

「証拠は不要だ。土地が欲しいと私が決め、逆らったから罰した。それで十分だ」

廷内が静まり返った。だが大公は、自分の身分に恐れているのだと思い、さらに声を張る。

「村人の証言など書き換えればよい。牢番には、父親が自白するまで食事を与えるなと命じてある」

エルシェは法廷書記へ一枚の確認状を渡した。

「大公殿下の判断として、今のお言葉をご署名いただけますか」

「何枚でも書いてやる」

ラングレアは〈証拠審理前に土地接収と投獄を決定。自白強要のため食事停止を命令。大公権は王国法に優越する〉と自筆し、大公印を押した。

法廷中央の白い羽根筆が、ひとりでに宙へ浮いた。

公開法廷の記録筆は、爵位に関係なく、発言と署名の一致を検証する。嘘があれば赤、真実なら青く光る。大公の三つの記述は、すべて青だった。本人が真実として認めたのである。

「こんな筆に何の権威がある!」

「初代ヴァイス大公が、貴族の私刑を禁じるため王へ献上した筆です」

宰相が答え、別の文書を広げた。そこにはラングレアが村の接収前日、狩猟仲間へ送った手紙がある。〈麦畑を焼けば平地になり、鹿を放しやすい〉。封印の内側には彼の魔力紋が残っていた。

牢番も前へ出た。大公から渡された食事停止命令を、そのまま持参している。命令書には今しがたの確認状と同じ署名、同じ印があった。父は王城の医務官に保護され、すでに別室で治療を受けているという。

エルシェは被告席を見た。空席のままだった。大公は最後まで座らなかったが、記録筆は彼の名を罪状の下へ正確に書き終えていた。

国王が立ち、王笏を一度鳴らす。近衛騎士が大公の左右へ進んだ。

宰相は王印付きの命令書を開いた。

「ラングレア・ヴァイス。違法な土地接収、証拠なき投獄、自白強要および王国法への反逆の容疑により、国王陛下は貴殿の逮捕を命じる」