王都を支えた名もなき輪

クレアドが国を追われた翌朝、王都では三つの魔法が同時に壊れた。

転移門から出た馬車が噴水広場へ半分だけ現れ、街灯は昼なのに燃え上がり、王宮の祝砲は空ではなく地下へ轟いた。個々の術式に故障はない。魔力の流れだけが、交差点ごとにぶつかっていた。

国王ベオラスは宮廷魔術師を集める。

「王都の大結界は健在だろう!」

「外敵を防ぐ大結界は健在です。しかし、街の内側を分ける輪がありません」

クレアドは王都の地下へ、名もない小結界を何千と置いていた。転移門の流れ、街灯の火力、祝砲の衝撃。それぞれが他の術へ混ざらないよう、道の角で少しずつ曲げる輪だ。

平和になり、敵の攻撃を一度も止めていないとして、王は彼を「国家級を名乗るには地味すぎる」と追放した。最初の朝、王都は敵兵一人いないまま自分の魔法に襲われた。

同じ日、辺境都市ノーヴァでは新しい転移門が開通した。荷車が十台続けて現れても、隣の治癒院の術灯は一度も揺れない。市長サルナックが広場へ集まった民へ宣言する。

「この街の結界は、敵が来たときだけ働くものではない。毎日の灯り、薬、荷車を互いに邪魔させないためにある」

彼はクレアドへ、首席でも補佐でもない新しい肩書を渡した。

「都市結界設計長。何を守るかではなく、街そのものをどう動かすか、あなたが決めてほしい」

広場の灯りが一斉に点き、転移門から届いた花束がクレアドへ渡された。

その瞬間、王都の緊急通信が空へ巨大な王像を映した。ベオラスが玉座から命じる。

『国難である。追放を撤回し、王都の輪を復旧せよ。望む爵位を与える』

クレアドは新しい都市章を掲げ、王像を見上げた。

巨大な王像は、広場にいる全員へ命令を聞かせた。だがノーヴァの民は怯えず、市長もクレアドへ返答を強いなかった。都市章は王から借りる身分ではなく、住民が彼へ預けた権限だからだ。クレアドは王都を憎んでいない。残した設計図を読めば、宮廷魔術師たちにも応急修復はできる。それを地味だと倉庫へしまった者が、まず頭を下げて学ぶべきだった。新しい街では、彼の輪を若い技師へ公開し、誰か一人が消えても朝の灯りが点く都市を作ると決めている。

「王国との契約は、昨日をもって終了しています」