甘い枝、強い根

王家の紅蜜果は、実をつける前に根元から萎れた。

 果肉は砂糖より甘く、王女の婚礼菓子に千個必要だ。だが王立試験園の百株は土病で九十一株が枯れ、園芸伯は種を持ち込んだ異界人・片喰勇弥へ賠償を命じた。

 勇弥は、荒野で雑草のように生える苦い野果を掘った。

「婚礼に獣の餌を出す気か」

 園芸伯セルディンは笑う。

 勇弥は野果の丈夫な茎を地際で切り、紅蜜果の若い枝も同じ斜めに切った。切り口をぴたりと合わせ、布で固定する。上は甘い紅蜜果、下は病気に強い野果の根。一本の株へする接ぎ木だった。

 接いだ三十株と、紅蜜果をそのまま育てた三十株を、前年に病気が出た同じ畑へ植えた。

 一週間後、無接ぎ株の葉が七本黄ばんだ。接ぎ木株は三十本とも立っている。

 三週間後、無接ぎ株は二十二本が萎れ、茎の中まで褐色になった。接ぎ木株で枯れたのは、接合に失敗した二本だけ。布を外すと、切り口は一つの茎として白くつながっていた。

「生き残っても、実は苦くなる」

 セルディンは最後の反論をした。

 初収穫の日、検査官が接ぎ木株から赤い実を十個取り、野果の実と別々に絞った。接ぎ木の果汁は糖度石十八。従来の紅蜜果と同じ値で、野果の苦味は一滴もない。味を作る枝は紅蜜果のまま、根の強さだけを借りていた。

 収穫数は、無接ぎの生存八株から二十三個。接ぎ木の生存二十八株から百四十六個。病畑を替えずに六倍以上だった。

 園芸伯は「土を浄化する魔法を隠した」と訴えたが、検査官は枯れた無接ぎ株と隣で立つ接ぎ木株を一本ずつ抜いた。同じ土、同じ水。違うのは根だけだった。

 王女は紅蜜果を一口かじり、婚礼菓子長へ残りを渡した。

「千個の注文は取り消さない。むしろ三千個へ増やします」

 そして勇弥へ、王立試験園の印章を差し出した。

「来春の苗一万本を、すべてあなたの接ぎ木で。園芸伯ではなく、あなたを栽培責任者に任じます」

 賠償命令の羊皮紙は、接ぎ木を結ぶ細い紐へ切り分けられた。