白旗を追った五万兵

国軍参謀フェディナが国外へ追放された翌日、敵軍は白旗を掲げて退いた。

王セルバディは勝機だと叫び、全軍五万へ追撃を命じた。

敵は武器を捨て、谷の奥へ逃げる。王国軍は歓声を上げて赤石橋を渡った。

最後の部隊が渡り切った瞬間、橋が燃えた。

白旗の兵は囮だった。崖上から敵の本隊が現れ、王国軍は補給隊と切り離される。戻る橋はなく、前には空の谷しかない。最初の勝利命令から一刻で、五万の兵が包囲された。

「敵が逃げれば追うのが戦だ!」

王は怒鳴った。

フェディナは、敵が捨てた物を見るよう何度も進言していた。本当に敗走する軍は食料を捨てても水袋は離さない。今回、囮兵は剣だけを捨て、水袋を全員が背負ったまま整然と走っていた。

彼女なら橋の手前へ一万を残し、斥候が谷の出口を見るまで追撃を止めていた。王はそれを勝利を恐れる女の言い訳と呼び、国境の外へ放逐した。

包囲された軍の水は二日分しかなく、王は橋を直せと命じた。だが対岸は敵弓兵の射程内で、材木を運ぶ兵から倒れていく。五万という大軍は、狭い谷では互いの退路と水を奪う重荷になった。白旗を追う一つの命令が、王国最大の軍を一つの人質へ変えた。

王の足元には、フェディナが残した追撃条件表が落ちていた。「敵の水袋」「後衛の歩幅」「橋を守る兵」。三項目のうち一つも確認されていない。彼女は勝利を止めたのではなく、勝利という言葉で確認を省かせない役目を担っていた。

同じ頃、フェディナは山岳連邦の軍議で、敵の小隊が見せた退却を眺めていた。

「追いません。彼らの靴に泥がない。谷を長く逃げてきた兵ではありません」

連邦軍が陣を保つと、森に隠れていた伏兵が待ち切れず姿を現した。弓の届かない距離から包囲網が崩れ、戦わずに国境を守れた。

女王ラトゥナは全将の前で、フェディナへ連邦首席参謀の杖を授けた。

「勝つ好機だけでなく、勝ったように見せられた瞬間を見抜く者が要る」

夕暮れ、故国から転移書簡が届いた。五万を救えば追放を撤回し、王の右席を与えるという。

連邦は包囲された兵への水と治療薬の投下を決めた。フェディナも人道救援の脱出路は設計する。ただし、王の右席へ戻る条件で五万の命を取引するつもりはなかった。

フェディナは首席参謀の杖で封を押さえた。

「セルバディ王国との軍務契約は、国外追放令の発効をもって終了しています」