白紙の領収書

 大庭義規は、会社のノートパソコンを修理カウンターへ置いた。

「液晶交換。請求は十万円で、領収書の品目は空欄にして」

 担当の鷹取連は、診断額が三万二千円であること、会社契約の端末は実費と作業内容が自動登録されることを説明した。

「余った分はこっちで処理する。マウスとイヤホンも付けて」

「契約外の商品は別会計です」

「分かってないな。御社を来年度の指定業者にするか決めるのは俺だ」

 大庭は大手建設会社の購買課長だった。修理店は、全支店の端末保守を受託する最終候補に残っている。

「ここで気を利かせれば、年間契約をやる。できないなら今日で終わりだ」

 連は、会社契約で義務づけられた手順どおり、見積画面の《不適切な請求指示》欄へチェックを入れた。

「その入力、消せ」

「契約端末への依頼は、御社の管理部門にも共有されます」

「脅しか? 客の希望を書いただけだろ」

 大庭はカウンター越しに手を伸ばし、画面を閉じようとした。連は端末を下げる。

「操作記録を残したうえで、正規の修理のみ承ります」

「若造が契約を潰す気か。店長を呼べ」

 呼ばれて出てきた店長も、回答は同じだった。大庭は名刺を二枚投げ、片方の裏へ個人用の送付先を書く。

「じゃあ、景品はここへ送れ。領収書だけ会社。これならシステムに出ない」

 その瞬間、預かったパソコンの画面に通知が表示された。会社の資産管理ソフトが、修理受付データを受信したのだ。

《コンプライアンス確認のため遠隔接続を開始します》

 大庭は電源ボタンを押したが、画面には管理者権限で接続した監査責任者の顔が映った。

『大庭課長。受付記録と店内音声は確認しました』

「これは業者の営業姿勢を試す検査で――」

『その権限はあなたにありません。むしろ、今回の入札では不正要求を拒否できる業者かを確認していました』

 監査責任者は連へ一礼し、社内処理画面を共有した。

《大庭義規 購買権限停止》

『指定業者の最終審査は合格。あなたは本日付で担当から外します』