百人目の勝者
「九十九」
リオメが数えると、キサルの胸の中で九十九人が返事をした。
処刑殿の円陣には、最後の魔王が膝をついている。外では夜が空を食い、千人の避難民が朝を待っていた。
キサルの能力《勝葬》は、倒した者の魂を自分へ収め、その力を次の戦いで使う。代価は単純だ。一勝ごとに、自分の魂が百分の一ずつ押し出される。
一勝目のあと、好きだった歌を忘れた。三十勝目には故郷を見ても懐かしくなかった。七十勝目で母の死を他人の出来事として思い出した。九十九勝した今、キサルとして残っているのは百分の一だけだった。
「魔王を封じるだけなら、別の器を探せる」
リオメが言う。「あなたが勝てば、あなたは完全に消える」
魔王が笑った。「殺せ。百人目の私が、この身体をもらうだけだ」
キサルの口から、九十九人の声がささやく。剣士は斬れと言い、僧侶は赦せと言い、子どもは帰りたいと泣く。その奥に、自分の声が一つだけあった。
「朝を見たい」
それがキサルに残った最後の望みだった。
魔王が鎖を切り、夜の塊となって襲う。キサルは九十九の力を同時に解放した。炎、氷、毒、祈り、呪い。処刑殿の柱が溶け、円陣が白く燃える。
魔王の爪が胸を貫いた。
キサルはその腕を掴み、最後の百分の一を剣へ変えた。
「これは誰の勝利だ」
リオメの問いに、彼は笑った。
「朝を待つ者たちの」
剣を振り下ろす。
魔王が二つに裂けた。
百勝目。
夜がほどけ、天井の穴から朝日が差す。
リオメはキサルへ駆け寄った。身体は立っている。傷も塞がっている。だが瞳の中で百の顔が入れ替わり、呼吸のたび声が変わった。
「キサル」
呼びかけに、一人も反応しない。
「あなたの名よ」
百の声が相談するようにざわめいた。
やがて身体は首を傾げた。
「その者は、百人目に倒されたのか」
リオメは胸へ耳を当てた。心臓は百の異なるリズムで鳴っている。どの鼓動にも、彼女が知る癖はなかった。
避難民が朝日を見て歓声を上げる。
百人の勝者を収めた身体は、その音へ百通りの笑みを浮かべた。最後にキサルだった顔だけが剥がれ、灰となって床へ落ちた。
灰の下には、誰にも似ていない滑らかな顔があった。