眠らなくても朝は来る
野上が眠れないまま、部屋の機械は順番に夜を終え始めた。
午前四時二十分。エアコンの室外機が回転を弱める。四時三十二分、冷蔵庫が止まる。四時四十一分、降り続いていた雨が排水管の細い雫だけになる。天井の常夜灯は、暗さが薄くなるほど黄色く見えた。
野上は布団の中で、何時間眠れなかったかを考えないようにしていた。
今日は何も失敗していない。悩みを一つに絞ることもできない。ただ、仕事の言葉、買い忘れた洗剤、返していない連絡、将来の家賃が、順番を守らず頭へ入ってきた。眠ろうとするたび、夜が短くなる音だけが聞こえた。
冷蔵庫が再び回り始める。ぶうん。排水管から一滴。常夜灯。
午前四時五十八分、向かいのマンションのカーテンが開いた。
人影が窓辺へ立ち、部屋の照明を点けずに外を見た。両腕を上へ伸ばし、肩を回す。しばらくして湯沸かし器らしい青い灯が点き、人影は奥へ消えた。
早起きなのか、野上と同じく眠れなかったのかは分からない。朝の仕事へ行く人かもしれない。知らない人の一日が始まるところを、野上は暗い部屋から一瞬だけ見た。
空が青くなり、向かいの窓の輪郭がはっきりする。人影は戻らず、青い灯も消えた。
野上は眠れなかった夜を、無理に意味のある時間へ変えようとするのをやめた。考えが整理されたわけでも、寂しさが解決したわけでもない。ただ朝が、野上の準備を待たずに来ただけだった。
まぶたは重く、肩は固い。体は夜を上手に過ごせたとは言っていない。それでも、上手でなかった時間にも終わりはあり、野上が判定しなくても明るさは少しずつ増えていった。
台所で麦茶を一口飲み、常夜灯を消す。カーテンは閉めず、薄い朝の光を部屋へ入れた。アラームは七時に鳴る。今から眠れても眠れなくても、そのとき考えればいい。
布団へ戻ると、冷蔵庫の回転がまた止まった。雨だれも一度きりで途切れ、部屋は明るい静けさになった。
遠くで新聞配達のバイクが走り、別の部屋では給湯器が点火した。町は一斉に朝になるのではなく、機械と人が少しずつ夜を離れていく。野上も同じ速さで立ち上がらなくてよかった。布団の中に残ることも、朝へ遅刻することではない。
誰かの朝に混ざったから救われたのではない。夜を一人で越えた自分を、失敗として数えなくてよくなっただけだった。野上は目を閉じた。眠らなくても来る朝までなら、この部屋で一人でも大丈夫だった。