眠り薬を売らない日

セラフィナの自動調合塔は、眠り薬なら百種類作れる。

浅い眠り、夢を見ない眠り、悪夢から覚めるための眠り。注文札を入れると、星時計が体質を読み、月草、羊雲の綿、静寂水を必要な分だけ落とす。銀の腕が釜を混ぜ、瓶へ注ぎ、町の薬局へ転送する。売上の一部は製法権料として、塔の主へ自動で届く。

皮肉なことに、王立錬金塔で働いていたセラフィナは眠れなかった。

藍色の制服は肘が擦り切れ、胸元には夜勤徽章を外した丸い跡がある。眠り薬を作った直後に覚醒薬を作り、兵士を眠らせた翌朝には別の兵士を三日眠らせない薬を命じられた。退職後も緊急鏡には『軍需優先』『夜間招集』が未読で五十件残っている。

夕方、星時計が澄んだ音を鳴らした。

《今月の眠り薬販売分、製法権料を入金しました》

塔の維持費を払い、静かに暮らすには十分な額だった。セラフィナは金額を閉じ、今夜は薬を飲まずに眠れるだろうかと考えた。

緊急鏡が白く燃え、元塔長が映る。

『国境演習が延びた。兵三百人分の強制覚醒薬が要る。お前の配合でなければ心臓への負担が大きい。今夜戻れ』

「作りません」

『眠らせないだけだ。殺す薬ではない』

「眠る権利を奪う薬です」

『国家命令だぞ』

「私はもう国家の備品ではありません」

『いくらなら戻る』

セラフィナは寝台の上の、何も入っていない小瓶を見た。

「私の夜は売りません。どんな額でも」

鏡を壁から外し、通知線を一本ずつ抜いた。自動調合塔は眠り薬の注文だけを静かに処理し、彼女の名義へ小さな収益を積み続ける。

塔を去った最初の百日、セラフィナは自分用の眠り薬を毎晩調合した。目を閉じると招集鐘が聞こえ、眠れば怠けたと責められる気がしたからだ。だが自動釜が収益を生み、何もしない日にも食卓へパンを置けると分かるにつれ、瓶の量は半分になり、やがて空になった。眠りは薬で許可されるものではない。役に立った日の褒美でもない。生きている体が当然に求めてよい時間だと、彼女はようやく覚え始めていた。

セラフィナは星時計の目覚まし機能も切った。眠り薬を一滴も使わず、明日起きる時刻も決めずに、まだ早い夜の寝台へ潜り込んだ。