神々が処刑席から立った日
「魔力ゼロの凡人が、神前闘技場へ立てるだけでも光栄と思え」
大神王の宣告が、十万人の観客席へ響いた。
鳴海朔は二十人の勇者とともに召喚された。
他の者には剣聖、賢者、竜騎士の称号。朔の石板だけは何も示さなかった。追放されるはずが、神々の娯楽にちょうどよいと、処刑試合へ回された。
対戦相手は終末巨人。
七つの王国を滅ぼし、今も神鎖で闘技場地下へ拘束されている怪物だ。
観客席の最上段には十二柱の神々。
その下に国王、英雄、勇者たち。
最下段の砂地に朔一人。
巨人が鎖を引きちぎり、立ち上がった。
観客は歓声を上げる。
朔の視界に、ようやく能力が現れた。
《真位階》
この場にいる全存在の本当の位階を、一度だけ公開する。
攻撃力はない。
防御もできない。
けれど朔は、神々が巨人を恐れていることに気づいていた。歓声を煽りながら、誰一人として神座から降りてこない。
朔は能力を使った。
世界から音が消えた。
すべての頭上へ数字が浮かぶ。
一般兵は十。勇者は千。国王は百。
十二神は一万から三万。
終末巨人は九万。
そして朔の頭上には、数字ではなく一行だけが現れた。
《位階算定者・比較対象外》
大神王が立ち上がる。
その動きに反応し、神々の冠が一斉に床へ落ちた。
終末巨人は拳を振り上げたまま固まり、朔の表示を見た。やがて七王国を滅ぼした巨体が両膝をつき、額を砂へ押し当てる。
神鎖ではない。
自分の意思で。
位階測定塔が朔を読み取ろうと光を放つ。
塔は一段目から順に亀裂を走らせ、頂上の神眼まで粉砕された。破片は地面へ落ちる前に灰となり、風に消える。
戦いは始まらなかった。
朔は剣すら持っていない。
召喚勇者たちは称号板を隠すように伏せ、国王たちは玉座を離れる。
最後まで立っていた大神王も、やがて神座から降りた。
彼は処刑席の砂地へ足をつけ、朔と同じ高さに立つ。
「御名を、伺ってもよろしいか」
十万人が息を呑んだ。
処刑される凡人へ向けた声ではない。
朔が名乗る前から、観客席の全員が立ち上がっていた。
神々さえも、彼を見下ろす席にはもう座っていなかった。