神託を書いた者
「文章の本当の語り手が分かるだけ? 神託に署名はない」
大神殿の鑑定で、コルベラは無能とされた。
【能力:《語り手見抜き》――一つの文章について、その言葉を最初に語った存在を理解する】
内容の真偽は分からず、一日に一文だけ。彼女は神託板の写し係へ回された。
日蝕の朝、太陽神の祭壇へ赤い神託が浮かんだ。
――都の長子千人を炎へ返せ。さもなくば太陽は二度と昇らぬ。
空は昼なのに暗く、神殿の聖火も消えかけている。歴代の神託と同じ文字、同じ神威。大神官も聖王も、太陽神の命令だと信じた。
広場には千人の子供が集められた。
炎冠王メザリオは顔を青くしながら、国を救うため祭壇へ火を入れようとする。
コルベラは神託板へ触れた。
《語り手見抜き》。
その一文を最初に語ったのは、太陽神ではなかった。
祭壇の下に封じられた、喰日蛇だった。
蛇は太陽神の文字を千年見上げ、字体と神威を真似ていた。日蝕を起こしたのも、子供の生命を食べて封印を破るためだ。
「証拠は能力だけか」
大神官が問う。
コルベラは歴代神託の写しを抱えてきた。太陽神の文は必ず「われら」と語る。光は一人へ所有されず、炎と影を含む複数として自称するからだ。赤い神託だけが「さもなくば太陽は」と、自分を第三者のように呼んでいる。
「太陽を人質に取れる者が、太陽本人のはずはありません」
メザリオは祭壇の火を消した。
子供を差し出す代わりに、神殿床を割る。地下から黒い大蛇が現れ、神託板へ食らいついた。だが日の光を模した文字を剥がした瞬間、封印の金鎖が蛇自身へ巻きつく。
日蝕が終わり、本物の太陽が広場へ戻った。千人の子供たちの影が一斉に伸びる。
鑑定官が「神託の文体を比べただけ」と言う。
メザリオは赤い板の破片を、その者の無能札へ重ねた。
「署名のない言葉ほど、誰が得をするか問わねばならぬ」
炎冠王は太陽神殿の最高印をコルベラへ渡した。
「今日から神の言葉を最初に読む者は、神官ではない。語り手を疑えるおまえだ」