税の行き先を掲げる日
灰麦村の共同穀倉は、税を取り立てるたび空になった。
収穫の一割を納めているのに、凶作になると「領主分は運び終えた」と役人は言う。村人は税率ではなく、行き先を知らされていなかった。誰かが隠していると疑い合い、今年は収穫前から納税拒否が広がった。
若い領主カイネは、護衛を連れずに空の穀倉へ入った。床に残っていたのは、去年の麦粒三つだけだった。
「一割を八分に下げます」
村人は喜ばなかった。低い税率も、あとで臨時税を足されれば同じだ。
カイネは大きな算盤を運び込み、八個の玉を並べた。
「収穫百袋につき八袋。四袋はこの共同穀倉、二袋は水路と道、一袋は種麦の貸付、一袋だけが領主館です。袋に満たない分は升で同じ割合に量ります。臨時徴収はしません。動かした麦は、その日のうちに玉を移し、受取人の名を板へ書きます」
「領主館が一袋だけで足りるのか」
「足りなければ、私が領主館の支出を減らします。村の冬を増税で埋めることはしない」
「穀倉の麦を夜に運び出したら?」
「鍵を三つに分けます。村長、粉屋、今年もっとも収穫の少なかった家が一つずつ持つ。三人が揃わなければ開きません」
豊かな者だけでなく、最も苦しい者にも鍵を預ける。その瞬間、広場の疑いがざわめきへ変わった。
収穫日、最初の農夫が百袋から八袋を分けた。役人が運ぼうとすると、農夫は四袋を自分で共同穀倉へ担いだ。
「命令ではありません」
「知ってる。俺の麦が領主の宴会じゃなく、隣の家の冬になるところを見たい」
次の農家も、また次も、自分で袋を運んだ。収穫の少なかった家は税が二袋だけになり、そのうち一袋が穀倉へ入る。率は同じ八分。余裕の違いは、量に自然と表れた。
大工は穀倉の穴を見つけ、無償で板を当てた。
「工賃は道の二袋分から出せます」
「払うなら来春でいい。今は鼠に税を取られる方が腹立たしい」
粉屋は量りを貸し、子どもたちは袋に年度印を押した。誰も徴発されていない。見える八個の玉が、疑いを仕事へ変えていった。
夕暮れ、穀倉は四年ぶりに半分まで満ちた。
カイネは入口へ、税率ではなく行き先を書いた大看板を掛ける。
『八袋のうち、四は冬、二は道、一は種、一は館。これ以外は取らない。』
三本の鍵が別々の手で回され、扉が閉まる。
その内側で、最初の麦袋が春まで残る重い音を立てた。