第三希望は未定
進路希望調査の第三希望に、私は「未定」と書いた。
第一希望は東京の大学。
第二希望は地元の大学。
どちらも同じ学部で、判定もほぼ同じ。
担任は紙を返した。
「第三希望まで学校名を書け」
「行きたいところが二つしかないです」
「落ちたらどうする」
「そのとき考えます」
「遅い」
正論だった。
周りは安全校を決め、推薦や就職の手続きを進めている。
私は東京へ行きたい。大きな図書館、研究施設、知らない人ばかりの町。
同時に、地元にも残りたい。祖父母の家、部活の後輩、毎朝見える山。
どちらかを強く望めない自分が、覚悟のない人間に思えた。
放課後、担任は三枚の白紙を机へ置いた。
「東京へ行った一年後、地元へ残った一年後、どちらにも受からなかった一年後を書け」
小説の課題のようだった。
東京の紙には、満員電車と寮の狭い部屋を書いた。憧れの研究室と、方言を話す相手がいない夜も書いた。
地元の紙には、家から通う安心と、変わらない景色への焦りを書いた。地域調査の授業で、町を違う目で見る自分も書いた。
不合格の紙には、予備校、アルバイト、友人の合格を祝えない自分を書いた。
どの未来にも、良いことと嫌なことがあった。
「書けました」
担任は三枚を読んだ。
「なら、未定でも考えてはいるな」
「第三希望、未定でいいですか」
「学校名は書け」
結局、制度は柔軟ではなかった。
私は第三希望に、県外の国立大学を書いた。東京でも地元でもない場所。調べると、面白い研究室があった。
受験の結果、第一希望は不合格。第二希望と第三希望に合格した。
最後まで迷い、第三希望へ進んだ。
家族も友人も驚いた。
「東京へ行きたかったんじゃないの」
「地元に残るんじゃなかったの」
どちらも本当だった。
だから、その二択から一度離れた。
入学後、楽しい日も、選択を後悔する日もあった。
高校へ報告に行くと、担任が古い進路希望調査を見せた。
第三希望の学校名の下に、消した「未定」が薄く残っていた。
「これが一番正直だったな」
私は笑った。
未定は、何も考えていない空白ではなかった。
複数の未来を同時に怖がり、同時に望んでいた時間の名前だった。
進路を決めた瞬間より、決められない自分を急いで否定しなかったことのほうが、その後の選択を支えている。