紫の実と帰らない返事
王女オフィーラは、王位継承争いを終わらせるため、自分から宮殿を出た。
弟を支持する貴族たちは勝ち誇り、「畑仕事など一月も続かない」と辺境の土地を与えた。
土地には崩れた小屋と、痩せた畝が一本あるだけだった。
それから一季節。
オフィーラは宝石の名しか知らなかった指で土をほぐし、井戸から水を運んだ。花が落ちるたび失敗を覚え、残った一輪を風から守った。宮廷で一国を動かすより、一個の実を育てるほうが自分の手応えを返してくれた。
畝の葉陰に、艶やかな紫の茄子が一個、重そうに下がっていた。
収穫の朝、オフィーラは礼装ではなく泥の付いた長靴で畑へ出た。
実を持ち上げ、へたの上へ鋏を入れる。
ぱちん。
掌に落ちた茄子はひんやりして、磨いた宝石より深い紫をしていた。
傷が一筋ある。彼女はそこを親指でなぞり、笑った。傷があっても、誰も王位不適格とは言わない。
昼過ぎ、王家の馬車が畑の前へ止まった。
宰相が降り、膝をつく。
「新王陛下が急病です。議会は、殿下に摂政としてお戻りいただきたいと」
金縁の召還状が差し出された。
かつて彼女を宮殿から追い出した署名が、下にずらりと並んでいる。
オフィーラは書状を受け取ったが、封を切らなかった。
「返答はいつ頂けますか」
「夕食のあとに」
小屋へ入り、茄子を縦に切る。
白い果肉へ格子の切れ目を入れ、鉄鍋に油を引く。
切り口を下に置いた瞬間、じゅう、と勢いよく音が上がった。紫の皮がさらに艶めき、香ばしい匂いが窓から外へ流れる。
豆味噌と蜂蜜を混ぜて塗ると、表面がふつふつ泡立った。
宰相は戸口で落ち着かない。
「国政は一刻を争います」
「油の温度も一刻を争うのよ」
「国と料理を同列に?」
「私の夕食をいつも後回しにする国だったから、出てきたのです」
焼けた茄子を箸で割る。
中から白い湯気が上がり、果肉はとろりと崩れた。甘辛い味噌と油を吸い、舌の上で溶ける。
オフィーラは目を閉じ、一口をきちんと味わった。
外で馬が鼻を鳴らす。
宰相はまだ返事を待っている。
オフィーラは召還状を皿の下へ敷き、二口目を取った。
王国が彼女を必要とする夜に、彼女は初めて、自分が必要とするものを先に選んだ。
鉄鍋では残り半分の茄子が、帰らない返事の代わりに、じゅうじゅうと心地よく焼けていた。