経験値マイナスの獲物

鳩羽メロウは、PK《吸星王カーディ》の剣を胸で受けた。

《経験値吸収PvP》

対人ダメージ一回につき、被害者の現在経験値一%を攻撃者へ移します。

経験値は負数も転送されます。

《メロウ Lv1/EXP表示:0》

「初心者は一撃で空だ」

カーディは笑い、もう一度斬る。

彼のレベルが百から九十九へ下がった。

「なぜだ」

メロウの経験値表示はゼロのまま。正確には、画面幅に収まらない負数が省略されていた。転生クエスト失敗で背負った経験値債務、マイナス九百九十九万。

「バグだろ!」

三撃目。カーディ九十八。

メロウは痛みに耐えながら後退する。逃げれば相手は疑う。わざと怯え、弱い初心者を演じる。

「やめて。もう何も持ってない」

「だったら、なぜ俺が下がる!」

カーディは奪われたと思い込み、取り戻すためさらに斬る。攻撃のたび、負の経験値が一%ずつ彼へ流れる。

レベル八十。五十。十。

装備条件を失い、神剣が手から落ちる。PK専用技能も一つずつ灰色になる。

「お前、俺に何をした」

「何も。欲しがった分を渡しただけ」

最後の一撃は素手だった。

《カーディ Lv1→0》

彼の赤名表示が消え、初期アバターへ戻る。経験値債務を持つレベルゼロは、PK区域へ留まれない。

一方、メロウの債務は吸われた分だけ軽くなり、経験値表示に初めて数字が現れた。

《鳩羽メロウ EXP:-3,642,101》

《吸星王カーディ EXP:-6,357,899》

カーディは奪った量を見て青ざめる。

《経験値移転を完了》

カーディはレベルゼロの身体で、神剣を持ち上げようと何度も試した。装備条件を満たさず、指が柄をすり抜ける。

「返せ」

「吸収は一方向だよ」

メロウの債務はまだ三百六十四万以上残っている。勝ったから帳消しになるわけではない。それでも初めて、数字が減る可能性を見た。

カーディが奪った負経験値には、転生クエストでメロウが救えなかったNPCの未完了依頼が紐づいている。債務を減らすには、本来その依頼を一件ずつ終えるしかない。

二人の画面へ同じ一覧が開く。

メロウは立ち上がる。

「取り戻したいなら手伝って」

元PKは拒否できない。負債まで奪った以上、未完了の世界も彼の経験になっていた。

《勝者を確定――経験値を奪われ続けた初心者ではなく、負債まで財産だと思って吸い尽くしたPKが最弱状態へ到達しました》