自称最強の誤字を消す

《公式プロフィールの“自称最強”が答えだろ》

《黒瀬湊は運営公認じゃない》

《肩書きだけ盛った偽物、今日こそ負けそう》

黒瀬湊は、自分のプロフィールを画面に残したまま最終迷宮へ入った。

【自称・世界最強】

申請時の事務ミスだと説明しても、誰も信じなかった一行だ。訂正には実績審査が必要で、湊はあえてそのままにしていた。

何度も訂正を勧められたが、彼は「文字より配信を見ればいい」と申請書を戻した。その態度まで、設定を守る演技だと笑われていた。

最奥で、記録喰らいが待っている。倒した相手の功績を消し、自分の名前へ書き換えるボス。床には歴代探索者の空白になった石碑が並ぶ。

記録喰らいが湊の配信履歴を吸い始めた。討伐数、救助数、世界記録。画面上の数字が次々とゼロへ変わる。

「ちょうどいい。肩書きじゃなく、今ここだけ見てもらえる」

湊は剣を抜き、一度だけ縦に振った。

刃は記録喰らいの身体に触れない。

斬れたのは、宙に浮かぶボスの名前だった。

【記録喰らい】の五文字が中央から割れる。名前を失った怪物は存在を保てず、奪った功績をすべて吐き戻しながら崩壊した。空白の石碑にも持ち主の名が戻っていく。

《ダメージログなし》

《対象指定が“名称”になってる》

《名前を斬ったから、討伐対象として存在できなくなった?》

《消えた記録が全件復旧してる》

《肩書きを盛るどころか、他人の肩書きまで取り返したぞ》

湊は剣を収める。

「最強って文字を斬ることもできる。でも、それじゃ証明にならないからね」

迷宮の自動審査が始まった。過去の実績は改竄前の署名と一致し、今回の討伐も単独、無支援、単発攻撃として確定する。

《全記録真正》

《不正加算なし》

《世界記録保持数、復旧後も歴代一位》

《偽物扱いして悪かった。“自称”で収まってたほうが謙虚だった》

運営公式がコメント欄へ現れた。

【長期間の表記不備をお詫びし、審査結果に基づき訂正します】

配信画面のプロフィールが点滅する。

【自称・世界最強】

「自称」の二文字が消え、代わりに金色の認定印が押された。

【公式認定・世界最強――黒瀬湊】

その更新と同時に、同時視聴者数が世界最多記録を塗り替えた。