英雄が売った避難札
魔獣襲撃の警報が鳴るたび、町長代理のヴァレクは《優先避難札》を売った。
「この金札があれば、城門を最初に通れる。命が惜しければ買え」
本来、避難は無料で、子どもと負傷者が優先される。前回の警報では、札を買えない老人が門外に残され、孫が泣いてもヴァレクは列を動かさなかった。その一方で、自分の親族には金札を無償で配っていた。だがヴァレクは裕福な商人から金貨を集め、札のない住民を列の最後へ追いやった。
避難所係のエノラが規則を示すと、彼は住民の前で規則書を破いた。
「町長代理の私が規則だ。事故が起きたら、お前が門を閉めたことにする」
その夜、実際に警報が鳴った。ヴァレクは商人たちへ金札を配り、一枚ごとに自分の署名を入れる。
「王都監査には、寄付の記念品と説明する。お前たちは何も言うな」
エノラは金札の商人を先頭には置かなかった。泣いている子どもを抱き上げ、足の遅い老人の横へ兵士をつける。門を閉めず、全員を規定どおり避難させた。最後に自分が通り、避難者名簿へ一人ずつ到着時刻を記した。警報は、王都が抜き打ちで行った避難訓練だった。
翌朝、監察官が町役場へ入る。ヴァレクは、エノラが偽札を売り、自分は被害を止めようとしたと主張した。
監察官は回収した金札を並べた。鋳造所の刻印番号から、注文者はヴァレクと判明した。代金は町の防災予算から支払われている。
彼は記念品だったと言い張る。
そこで城門の警報水晶が再生された。警報中の命令は、後日の検証のためすべて保存される。
――命が惜しければ買え。
――事故が起きたら、お前が門を閉めたことにする。
さらに商人たちの札には、《優先避難を町長代理ヴァレクが保証する》という彼自身の署名がある。寄付という言葉はどこにもなかった。
ヴァレクが監察官へ金貨袋を差し出す。最後の賄賂まで、警報水晶の前だった。
監察官は袋に触れず、王都からの命令書を開いた。
「町長代理ヴァレク。公金横領、詐欺および収賄の罪により、官職剥奪と即時逮捕を命じる」