葱の白いところから

 雪の朝、榊原六花の玄関に長葱が十本立てかけられていた。

 隣の峯岸梢が、農家の親戚から届いた分を半分置いていったのだ。

 六花は一本を返そうと呼び鈴を押した。

「こんなに食べられません」

「私も。だから鍋にしようと思って」

「二人でも多いです」

「では、焼いて縮めます」

 六花は昨年、長く勤めた会社を辞め、今は資格試験の勉強をしている。平日の昼間に在宅していることを、近所の人へ見られるのが少し恥ずかしかった。

 梢は小さな花屋を畳んだばかりで、毎朝同じ時間に目が覚めても、シャッターを開ける店がない。

 二人とも、相手が家にいる理由を深く聞かなかった。

 長葱を五センチほどに切り、フライパンでじっくり焼く。白い部分に焦げ目がつき、内側がとろりと柔らかくなるまで待つ。

 耐熱皿へ並べ、炒めた鶏肉と茸を加え、牛乳で作った簡単なホワイトソースをかけた。上からパン粉とチーズを散らし、オーブンへ入れる。

「葱にグラタンは合いますか」

「白いもの同士だから」

「根拠が雑ですね」

「献立はそれくらいでいいの」

 焼き上がると、表面のチーズが金色に膨らみ、焦げた葱の甘い香りが部屋へ広がった。

 二人で取り分ける。葱は箸で切れるほど柔らかく、噛むと熱い甘みが溢れた。ホワイトソースのこってりした味を、葱の青い香りが軽くする。

「勉強、進んでる?」

 梢が訊いた。

「聞かない約束では」

「深くは聞いてない」

「今日は三頁です」

「私は店の鉢を二つ片づけた」

「少ないですね」

「そちらも」

 二人で笑った。

 食後、残った青い部分を刻み、明日の炒飯用に分けた。白い部分を食べ終えても、葱にはまだ使えるところがある。

「店を閉めたあとの自分も、青いところでしょうか」

 梢が言う。

「香りが強い方ですね」

 六花は答えた。

「私はまだ土の中かも」

「なら、急がず甘くなればいい」

 窓の外では雪が細く降り続いていた。六花が自室へ戻ると、教科書の横に梢からもらった葱の束がある。

 服には焼けたチーズと葱の匂いが残り、白い午後の静けさを、オーブンの余熱がゆっくり温めていた。