誰も遊んでいない世界

刻見青磁は、誰も利用していない仮想遊園地を毎晩点検していた。

十年前、難病の少女一人のために作られた世界だった。少女は昏睡状態のまま脳接続され、観覧車、海賊船、綿菓子屋を夢の中で歩いた。意識反応はなくなったが、家族の希望でサーバーだけが維持されていた。

会社はついに停止を決めた。少女の両親も同意した。青磁の仕事は、内部に誰もいないことを確認し、電源を落とすだけだった。

最後の巡回で、観覧車が動いていた。

頂上のゴンドラに、白いワンピースの少女が座っていた。

「閉園するの?」

青磁は記録を確認した。会話AIではない。昏睡患者の微弱な脳信号から生成されたアバターだった。

「君は、ここにいることを分かっている?」

「ずっと待ってた。外のお母さん、迎えに来ないから」

青磁は両親へ連絡した。医師は偶然の反応だと言い、会話内容に医学的価値はないと判断した。停止予定は変わらない。

母親だけが接続した。だが少女は彼女を見て首をかしげた。

「おばさん、誰?」

十年で母は老い、少女の記憶は入院前のままだった。母は名乗れず、画面の外で泣いた。

停止まで二十分。青磁は少女と園内を回った。海賊船に乗り、綿菓子を二つ買い、誰もいないパレードを見た。

「外へ行ける?」

「君の身体は、まだ眠ってる」

「じゃあ、起きるまでここにいる」

青磁は嘘をつけなかった。閉園すれば、この場所も彼女も消えると話した。

少女はしばらく黙り、それから母親の画面へ向いた。

「お母さん、老けたね」

母は顔を上げた。声では分からなかったが、泣き方で思い出したのだという。

二人は残り時間を話し続けた。少女は学校へ行けなかったことを怒り、母は待たせたことを謝った。

閉園時刻、青磁は電源に手を置いた。少女が最後に言った。

「誰も遊んでなくなったら、遊園地は寂しい?」

青磁は答えた。

「今日、三人来たから大丈夫だ」

電源を落としたあと、彼は夜勤を辞めた。空の世界を守る仕事に慣れすぎて、生きている人へ会うのを避けていたからだ。

翌週、青磁は母親を訪ねた。二人で、現実の遊園地へ行った。観覧車の頂上で、空いた一席のぶんまで景色を説明した。