起き直した夜
日曜の午後十時半、安西祈里は、眠れないことを心配していた。
午後五時まで眠ったのだから当然だった。朝八時のアラームを止め、次に目を開けたときには夕焼けがカーテンの隙間にあった。休日を寝て失ったうえ、月曜の朝まで壊すのではないかと思うと、時計を見るたび身体が固くなった。
ベッドには入らず、部屋の照明も暗くした。眠るための音楽を流し、スマートフォンを伏せ、温かい牛乳を飲む。まだ十時半なのに、夜を早く終わらせようとしていた。
けれど目は冴えている。冷蔵庫の運転音、上の階の足音、遠くを走る電車まで聞こえた。何もしないまま横になれば、昼まで眠った自分をもう一度監視するだけだと分かった。
祈里は照明を一段明るくした。洗っていないマグカップを一つだけすすぎ、明日の鞄へ社員証を入れる。目覚ましは六時五十分と七時の二つ。三つ目は設定しなかった。
机の引き出しから、途中まで読んだ漫画を出す。十ページだけと決めず、眠くなるまででもなく、一話だけ読む。ページをめくるうちに、休日の残り時間を月曜への借金ではなく、自分の夜として使っている気がした。
読み終えたのは十一時十二分。まだ眠くない。けれど、さっきほど怖くもなかった。眠れなければ明日は少しつらい。それは解決していないし、昼まで寝た事実も戻らない。
祈里は布団を整え、窓を一度だけ開けた。夜気が頬へ触れ、向かいの部屋の明かりもまだついていた。
休日は、朝から夕方まで上手に使うものだと思っていた。けれど眠ってしまったあとに起き直した夜も、その中に含めていい。
椅子には、月曜に着るつもりだったブラウスが皺のまま掛かっていた。祈里はアイロンを出さず、別のシャツをクローゼットから選んだ。予定を一つ変えるだけで、明日の朝は来られる。夜のうちに完璧な月曜を作らなくても、目覚ましが鳴った時点から続きを考えればよかった。
祈里は時計を伏せ、漫画を枕元へ置いた。今日は寝て過ごした。そして今、起きている。それだけの一日を、零時まで急いで終わらせないことにした。