車を載せた塔
午前一時半、駅前の立体駐車塔で、乗用車を載せたパレットが中段に止まった。朝六時には月極利用者が並ぶ。鎌形玲が機械室へ着くと、管理会社の担当者は近接スイッチを手で押し、強制運転を試そうとしていた。
「位置を拾わないだけです。ここを入れれば下ろせます」
玲は操作を止め、塔内の監視映像を拡大した。パレットの左端が右より数センチ低い。位置を拾わないのはセンサーの故障ではなく、そこへ届いていない可能性がある。
点検口から見ると、搬送チェーンに大きな伸びはない。だが反対側のカウンターウェイトが途中で傾き、案内レールへ擦れていた。下部には、自動車のホイールボルトらしい金属片が落ちている。入庫時にパレットから転がり、ウェイトの案内ローラーへ噛み込んだのだ。
担当者は金属片を棒で突き落とそうとした。玲は全パレットを停止させ、車の真下を立入禁止にした。重りが急に外れれば、チェーンの張力が変わり、止まっていたパレットが跳ねる。近接スイッチを押したままなら、その動きを機械が正常位置と誤認する。
車の持ち主には、作業中に車内へ入らないよう地上で待ってもらった。忘れ物を取りたいと言われても、玲は扉を開けなかった。塔の中では止まった車も機械の荷物であり、人が乗った瞬間に重さと責任が変わる。急ぐ理由を聞くことと、危険を許すことは別だった。
玲はパレットを機械式の受けで支え、チェーンの張りを抜いた。案内ローラーを外すと、金属片で表面がえぐれている。片側だけ再使用すれば、次の上昇でまた傾くため、予備品へ交換した。
組み戻したあと、空のパレットを最低速度で一周させる。次に試験用の重りを載せ、各階の近接スイッチが自然に入ることを確認した。最後に客の車を地上へ下ろした。傷はない。
午前五時四十分、持ち主が駆け込み、何も知らず車へ乗った。担当者は強制運転用の鍵をポケットから出し、玲へ預けた。
最初の月極利用者が入口へ曲がってきたとき、別の入庫口で警報が鳴った。今度はカードを読んでも扉が開かない。塔の機械は車を吐き出しながら、次の朝を飲み込み始めていた。