退会理由は再会
二十三時五十分。丹羽晴登と遠野汐里は駅のカフェで、同時にマッチングアプリを開いた。最終電車まで十分。二人が会うのは、一年前に友人以上になれないまま離れて以来だった。
テーブルには、二つに折った乗車券がある。初めて二人で遠出した帰り、汐里が半分へ切り、晴登へ渡した。裏には〈次は恋人として〉。晴登は冗談だと思い、笑って財布へ入れた。汐里は笑われたと思い、その後の誘いを断った。晴登は断られるたび、切符の一文は酔った勢いだったのだと解釈し直した。汐里は財布から半券を出せない彼を見て、もう捨てたのだと思った。二人は同じ紙を持ったまま、別々に諦めた。汐里のプロフィールの背景には半券の左端、晴登の写真には右端が写っていた。二人とも、相手だけなら気づくように置いた。半券の切り口は、画面越しでもぴたりと重なる形だった。
今夜アプリで互いを見つけ、同時に右へ動かした。
「恋人、探してたんだ」と晴登が言う。
「晴登も」
「まあ、そろそろ」
「じゃあ今日、切符を返したら終わりだね」
二人は、相手が自分以外を探している前提で話した。汐里は零時に退会予約をしている。晴登も同じだった。
残り三分、アプリからデータ確認の通知が届く。退会前に、過去の履歴が表示された。
晴登が最初に右へ動かした相手は、半年前の汐里。だが当時、汐里はプロフィールを休止中で届かなかった。
汐里の履歴にも、同じ日の晴登が残っていた。晴登も介護でアプリを停止していたため、マッチしなかった。
二人は別々に前へ進もうとして、最初に同じ相手を探していた。真実が届くまで、半年と七分かかった。
「切符、返す?」と汐里が聞く。
「いや。つなげたら、まだ読める」
二つの半券を並べる。〈次は恋人として〉の一文が、折り目を越えて一つになった。
零時、退会理由の選択画面が出る。晴登は〈交際相手ができた〉を選んだ。汐里は「まだ早い」と笑いながら、同じ項目を押した。
二人はアカウントを削除し、つないだ切符を持って同じ最終電車に乗った。