部署名未定
組織図にない部署へ名前をつけるときは、七文字ちょうどにする。既存部署と同じ語を三文字以上使わず、命名者本人が午前零時に名札を掲げる。掲げた時点で、命名者はその部署へ所属する。社内規程にはそう書かれていた。
逆瀬川は経営企画室で組織改編を担当していた。社員数と人件費を照合するうち、毎月二十三人分の給与が〈部署名未定〉というコードから支払われていることに気づいた。受取人欄はすべて空白。上司は驚かず、「名前がないから照会できない」と答えた。
役員会は逆瀬川へ命名を命じた。名前が決まれば予算を管理できる。業務内容は不明で、所在地も不明。唯一の資料は、異動理由が空欄の社員一覧だった。
一覧には、退職したはずの同期、清掃中に挨拶を返してくれた老人、数年前から見かけない受付係が載っていた。最後の行には逆瀬川自身の社員番号があった。
彼は毎日出社し、会議資料を整え、誰かの決定を表へ直した。昼食は一人。家へ帰っても、連絡する相手はいない。社員一覧に自分の番号があることだけが、妙に正確な評価に思えた。
七文字の候補を作った。
〈所在不明者管理課〉は八文字。
〈忘却された社員室〉も八文字。
〈帰属先確認係〉は六文字。
締切の夜、逆瀬川は紙へ〈未所属者受入課〉と書いた。未、所、属、者、受、入、課。七文字だった。既存部署との三文字重複もない。
午前零時、本社の廊下に見覚えのない扉が現れた。表札を掛ける金具だけがある。逆瀬川が七文字の名札を掲げると、社員証の所属欄が白くなり、扉の鍵が開いた。
中には二十三席の机があった。全員が仕事をしていたが、顔を上げた者はいない。机上には、送られなかった書類、返却されなかった鍵、誰のものでもない制服が積まれている。空席は一つだけだった。
逆瀬川が座ると、電話が鳴った。元の上司からだった。
「すみません、部署名未定の担当者をご存じですか」
逆瀬川は自分の名を告げた。上司は少し黙り、「そのような社員は在籍していません」と丁寧に切った。
新しい部署では、問い合わせに名乗ってはいけない。それが机の上の一枚目の規則だった。逆瀬川は赤鉛筆で、自分の発言を記録から消した。
朝になると、組織図へ〈未所属者受入課〉が追加されていた。社員たちは昔からある部署として申請書を送り始めた。
扉の外では、逆瀬川の元の机が運び出されていた。マグカップだけが廊下に残り、底へ七文字の名札が沈んでいる。
文字は一つずつ剥がれ、黒い小さな脚を生やしてカップの縁を越えた。七匹は扉の隙間へ入り、最後に残った白い名札には、逆瀬川の親指の形をした浅い席だけがへこんでいた。