配信終了で怪物も終わる
《操作ミスで生配信になってるぞ》
《鬼頭至は戦闘員じゃなく記録保管官》
《観測喰いを「終了ボタン一つで消せる」は釣りだろ》
「記録開始」と口にした音声を端末が誤認し、鬼頭至の非公開調査は生配信になった。
《未記録庫》の中央では、黒い怪物が映像の枠いっぱいに膨らんでいる。観測されるほど実体を増す《観測喰い》だ。研究員十人を腹の中へ閉じ込め、視線とカメラを栄養にして成長する。
至は配信開始に気づいたが、慌てて端末を伏せなかった。コメントと視聴者数を一度だけ確認する。
研究員たちの姿は怪物の半透明な腹越しに見えていた。まだ生きている。しかし配信を非公開へ戻すだけでは、視聴済みの記録が残り、怪物は再生する。至は百万人の端末へ同じ開始時刻と同じ終了時刻を刻ませるため、あえて公開状態を維持した。
《同接が増えるたび質量も増えてる》
《十万人で推定三百トン、今二十万人》
《カメラを壊しても、見た人の記憶が残る限り再生するぞ》
「だから、壊しません。記録を完了させます」
至は怪物へ背を向け、配信管理画面を開いた。
観測喰いが腕を伸ばす。視聴者数は五十万、八十万、百万人。怪物の背が天井へ届き、未記録庫そのものが軋み始める。
《今切ったら中の十人ごと消えるんじゃ》
《待て、保管官の技能欄に《終端確定》》
《記録物の終了時点を固定し、それ以後の変化を認めない……?》
《つまり怪物が十人を呑む前を「最終状態」にできる!》
至は【配信を終了する】を一度だけ押した。
画面は暗くなった。
七秒後、迷宮管理局の公式アカウントが静止画を投稿した。
未記録庫には研究員十人が立ち、怪物は黒い染み一つ残していない。生体記録、監視時計、外部測量の全てが、配信終了と同じ一秒に変化停止を示していた。
《全員無事!》
《編集なし、時間改変なし。怪物の存在記録だけが「完了済み」になってる》
《配信を逃げずに百万人まで見せたのは、検証者を増やすためか》
《最後まで疑った俺たちが証人にされた》
救出された研究員代表は、至を記録係だからと退避対象から外した責任者だった。
《十名の記憶・身体に欠損なし》
《保管官が残ったから、全員の帰還記録が残った》
責任者の謝罪が投稿されると、至は短く「記録しました」とだけ返信した。
オフライン画面の下で、切り抜き動画の題名が更新される。
【操作ミスで怪物を育てた保管官】
その文字が消え、代わりに表示された。
【百万人を証人にして、怪物の続きだけを消した男】