金木犀の倉庫番
蔵前尋は、町の交流センターを管理している。
会議室を貸し、体操教室の椅子を並べ、災害用の毛布や水を倉庫へ保管する。入口には、尋の飼う茶色い犬・たんぽぽが寝ていて、来館者を尾で迎えた。
秋の防災点検の日、たんぽぽがいなくなった。
荷物を出し入れするため、裏口も倉庫も開いていた。誰かを追って外へ出たのか、建物の中へ入ったのか分からない。
点検に来ていた町内会、料理教室、少年野球の保護者たちが、自然に捜索班へ変わった。
外の班は公園と川沿いへ、建物の班は会議室、舞台袖、機械室を確認した。
たんぽぽは人が好きで、呼ばれると誰にでも寄る。それだけに、誰かと一緒に遠くへ行った可能性もあった。
町内放送を使うほどではないと迷っていると、子どもが言った。
「たんぽぽ、毛布の匂いが好きだよ」
冬の避難訓練では、広げた毛布の上へ必ず寝転んでいた。
倉庫は一度見たはずだった。
けれど奥の移動棚は閉じたまま。尋がハンドルを回して隙間を広げると、金木犀の甘い匂いに混じって、かすかな鼻息が聞こえた。
非常用毛布の箱が一つ開き、その中でたんぽぽが丸くなっていた。
誰かが在庫を確認した際に入り、別の人が気づかず棚を戻したらしい。空気は通っており、犬はただ暖かく眠っていた。
「倉庫番をしてたのか」
尋が抱き上げると、たんぽぽは大欠伸をした。
皆の安堵は笑いへ変わった。
せっかく集まったので、点検を最後まで行うことになった。
毛布の数、水の期限、懐中電灯の電池。料理教室の人たちは、期限の近い保存食を使って炊き込みごはんと茸汁を作った。
少年野球の子どもたちは箱へ大きく中身を書き、町内会の人は移動棚へ猫や犬が入らない柵を取りつけた。
夕方、センター前の長机へ皆が座った。
茸汁から味噌と牛蒡の湯気が立ち、炊き込みごはんには油揚げの甘い香りがある。たんぽぽは新しい柵の外で、毛布を一枚だけ敷いてもらい、満足そうに伏せていた。
「探す前より、倉庫が使いやすくなりましたね」
誰かが言う。
「犬が抜き打ち検査をしたんだ」
尋が答えると、また笑いが起きた。
それから月に一度、交流センターでは在庫確認を兼ねた夕食会が開かれた。
参加する人は毎回少しずつ違う。それでも、入口でたんぽぽが尾を振れば、初めての人も席へ入りやすかった。
金木犀が散ったあとも、倉庫の毛布には日の匂いが残り、調理室からは温かな汁物の香りが流れた。
迷子になった犬は、町の備えと食卓を同時に見つけた、小さな倉庫番になった。