隣に置く席

朝霧静流の評価面談には、昇格通知と部下一人の低評価表が並べられていた。

業務用ロボットの導入会社で、静流は一年間、小さな現場チームをまとめてきた。今月は倉庫の搬送停止を一件だけ担当し、新人が夜通しログを追って、古い制御番号の重複を見つけていた。本社のプロジェクトマネージャーへ上がる条件は、評価の低い新人を現場から外すことだった。

「指導しても成果が出ていない。あなたが抱え続ける必要はない」

部長は一覧表を見せた。静流はA、新人はD。だが、静流には見覚えのない成功案件が自分の欄へ入っていた。逆に新人の欄には、配属前に起きた遅延が三件も並ぶ。数字だけなら、静流が救い、新人が足を引っ張った形だった。

行を一つ追加した後、計算式の参照先だけがずれている。新人が単独で直した搬送停止の記録は静流の点数になり、導入前から残っていた遅延が新人へ付いていた。

静流は元データを開き、式を修正した。自分はBへ下がり、新人はAになった。画面上の棒グラフが入れ替わり、昇格通知に書かれた『圧倒的な個人成果』という文言が、急に借り物に見えた。

「これでは、昇格の根拠が変わるよ」

「根拠が間違ったまま座る席なら、私の席ではありません」

静流は新人を呼びつけず、チャットで「評価表の不具合を直した。あなたの記録は正しかった」とだけ送った。さらに、案件番号を動かしても担当者との対応が崩れない集計表へ変更し、次回から本人が評価根拠を確認できる欄を作った。評価される側が、面談の日まで誤りを知らされない手順も同時に変えた。

部長は昇格通知を引き寄せた。代わりに、来月始まる難航案件の現場リーダー募集を示した。本社勤務ではなく、同じチームで問題を解く役割。肩書は一段低い。

静流は迷わず応募画面を開いた。希望メンバー欄には、先ほど外されかけた新人の名も入れる。

面談室の端にあった空席を自分の隣へ引き寄せ、〈この案件を引き受ける〉をクリックした。