首席全員、起立
「魔力ゼロの転移者が、総合実技に混ざるな」
首席代表の公爵令息レクサスは、天城慧の測定票を掲げて笑った。最終試験は各科首席二十名との模擬戦。慧は補欠として結界維持を任されただけで、採点対象にすら入っていない。
開始直後、首席たちは華麗な魔法を撃ち合った。
炎竜、氷槍、雷獣。観覧席が沸く。しかし二十種の術が中央で衝突し、試験結界の奥に封じられていた災厄の扉を開いてしまう。
黒い巨人が片腕を現した。
それだけで首席たちの魔法は消え、全員が床へ押し倒される。空に浮かぶ災厄値は王国滅亡級を越え、測定文字が黒く焼け落ちた。結界の外では城壁が軋み、街の人々まで理由も分からず膝をつく。存在するだけで、自分より下位のすべてへ服従を強いる魔神だった。学院長の封印も、宮廷魔導師団の総攻撃も通じない。巨人の指が実技場を覆い、都市ごと握り潰そうとした。
慧は結界の隅から歩み出た。
彼が転移時に得た能力は、攻撃力でも防御力でもない。存在同士の順位を、一度だけ正しく並べ直すものだった。
《能力・序列確定――視界内の存在を、一度だけ本来の格に従わせる》
「順番を戻せ」
声は小さかった。
黒い巨人の腕が止まる。
天空に巨大な階位表が現れた。首席、教官、学院長、宮廷魔導師、災厄の巨人。そのすべての名が光の列となって並び、次々と下へ押し下げられる。
最上段に、天城慧の名が一つだけ残った。
巨人は抵抗する暇もなく指先から崩れ、黒い砂となって扉の向こうへ消える。災厄の扉そのものも小さく縮み、慧の足元で鍵穴ほどになって閉じた。
階位測定塔が彼の順位を数値へ変えようとした。だが表示盤には《比較対象なし》とだけ浮かび、塔全体が静かに砂へ変わった。
慧は二度目の命令をしない。倒れていた首席たちへ手も出さず、元の結界係の位置へ戻ろうとした。
その背中へ、椅子の引かれる音が重なった。
学院長が立つ。宮廷魔導師団長が立つ。王が立つ。続いて、床に伏していた二十人の首席が一人ずつ立ち上がった。
笑っていたレクサスは震える手で、自分の首席章を外す。
総合実技の記録板が最後に書き換わった。
《受験者一名。試験官、全世界》
誰からともなく、慧へ向かって礼が始まった。