魔王が落とした初心者の剣

魔王を倒した勇者ユーリの足元に、錆びた短剣が落ちた。

王侯たちは露骨に顔をしかめた。

「それが魔王の限定ドロップか?」

「伝説の王冠でも、無限の宝珠でもないのか」

鑑定前の名は《初心者の剣》。ユーリが旅立つ日に支給され、最初のスライム戦で折った剣と同じ形だった。

だが彼は迷わず拾った。

魔王が死んでも、空は赤いまま。大地には黒い亀裂が走り、城下の畑も故郷の森も砂になり始めている。魔王城を壊せば呪いも消えるという予言は外れた。このままでは勝利を祝う国そのものが一月で滅ぶ。

ユーリの能力《討伐後必要品》は、ボスを倒したあとに残る最大の問題を解決する限定品を必ず落とす。

必要なのは武器ではない。世界を生かすものだ。ユーリは旅の途中で救えなかった村々の名を覚えていた。勝利の褒賞より、その場所にもう一度朝が来ることを望んだ。

「その剣を王家へ献上せよ」

第一王子が手を伸ばす。貴族たちは、最後の戦利品を誰が所有するかで早くも言い争っていた。

ユーリは全員に背を向け、魔王の玉座の前へ短剣を突き立てた。

刃は抵抗なく床へ沈む。

柄から緑の光が広がった。城を走る黒い血管を逆流し、奪われた魔力を大地へ返していく。亀裂から草が芽吹き、灰になった森が若葉を開き、干上がった川へ水が戻る。

魔王軍に奪われた村々の名が地図へ復活する。呪いで魔物に変えられていた人々は元の姿へ戻り、戦場に残る毒も消えた。

ただし、魔王から力を買った者の加護だけは剥がれ落ちた。第一王子の腕から黒い紋章が浮き、密約の全文が空中へ映る。

「違う、これは王国を守るために――」

王子の強化魔法も、隠していた魔王軍の通行証も土へ還った。近衛兵が静かに彼を囲む。

ユーリは玉座から降りた。

「魔王を倒すだけなら、勇者一人でよかった。世界を始め直すなら、ここに生きる全員の仕事だ」

故郷の方角から、青い風が吹き込む。錆びた柄には、旅立ちの日と同じ小さな芽が絡んでいた。

世界が完全に緑へ戻ったあとで、剣の真名が初めて表示される。

【最終ボス限定SSR《創世の初心剣》――滅亡後世界の再起動、世界初成功】