黄金呪いを外す古手袋

古道具店〈銅貨一枚〉の棚で、最もみすぼらしい品は灰色の革手袋だった。

店主アーデラは値札に金貨百枚と書いている。客は皆、冗談だと笑った。だがその手袋は、黄金より高価なものを守るために作られていた。

閉店の鐘が鳴る頃、全身を外套で包んだ竜人女王ヴァルシェが入ってきた。

彼女が机へ触れる前に、アーデラは革布を敷いた。

「触れた物が金になる呪いですね」

女王は驚き、外套の下から黄金化した羽根ペンを出した。

隣国との停戦文書へ署名しようとするたび、紙もインクも金へ変わり、文字が残らない。代理署名は王権魔法が認めず、明朝までに署名できなければ戦争が再開する。

「宮廷魔術師は、祝福だから解けないと言った」

「富を増やす力しか見ない者には、呪いに見えないのでしょう」

アーデラは灰色の手袋を差し出した。

「これは触れた物の価値を消す手袋です。正確には、持ち主が手放してもよいと思う価値だけを、一時的にゼロとして扱います」

「停戦文書の価値は手放せない」

「紙と羽根ペンの値段なら手放せます。平和の価値まで消す必要はありません」

ヴァルシェが手袋をはめ、店の銅貨に触れた。金にはならない。次に白紙へ自分の名を書く。インクは黒いまま乾き、文字だけが王権魔法の赤光を帯びた。

彼女は何度も指を開閉した。

「十年ぶりに、物を壊さず触れた」

アーデラは値札を裏返した。

「呪いは消えません。手袋を外せば戻ります」

「十分だ。力を捨てず、力に命令できる」

翌朝、女王は正式な停戦文書を携えて戻った。署名は成功し、国境の軍は撤退を始めたという。

彼女は黄金の塊を机へ置こうとしたが、アーデラは首を振った。

「値札は金貨百枚です」

「私の金は、触れた物から生まれた。代金には不誠実だな」

女王は考え、手袋をはめた手で革袋を差し出した。中には、彼女が労働の対価として初めて受け取った王俸の銀貨が百枚入っていた。

「足りるか」

「お釣りが銅貨一枚です」

アーデラが店名どおりの銅貨を返すと、女王はそれを壊れ物のように大切に握った。

灰色の手袋をはめた竜人が、黄金に変えず扉を閉める。

売上箱へ銀貨が収まった瞬間、未来を告げるように二度目のドアベルが鳴った。