『推薦者の手土産』
次期部長を決める最終査定で、奥平廉と津守さやかは同じテーマの企画を提出した。地方支店を週末だけ子育て相談所にする案。完成度では、さやかが上だった。
しかし審査責任者の仙石仁は、廉に盗用疑惑があると切り出した。
「津守さんの初稿は一か月前。奥平さんの提出は昨日です」
廉は静かに答えた。
「私の初稿は二か月前です。部内共有には置いていませんでした」
仙石は鼻で笑った。
「後から作成日を変えたのでしょう。津守さんの案には、君の資料にない詳細な予算もある」
廉は査定会議の予約履歴を開いてほしいと頼んだ。仙石とさやかは一か月前から毎週、非公開の会議室を予約している。件名は「部長選考対策」。
さやかが慌てて言った。
「面接の練習です」
廉は次に、会社の文書検索ログを示した。最初の予約日、仙石は廉の個人フォルダへ管理者権限で入り、企画書を開いた。その五分後、さやかへメールで添付を送っている。件名は『手土産』。CCには誰もいなかったが、誤って自動保存された下書きが監査庫に残っていた。添付名の末尾には廉の社員番号があり、さやか版でも消されていなかった。予算表の数式コメントには廉のイニシャルも残り、さやかは数字の根拠を問われて三度答えを変えた。
仙石は声を強めた。
「候補者の力量を見るため、参考資料を渡しただけだ。津守さんは発展させた」
「なら、なぜ私を盗用者として落とそうとしたんですか」
仙石は答えられない。さやかも目を伏せ、査定室の時計だけが進んだ。さやかの企画書の版履歴には、廉の元ファイルを複製した時刻がそのまま残り、作成者名だけが削除されていた。
他の査定委員が評価票を回収した。委員長代行が告げる。
「津守さんの部長昇進内定を取り消します。仙石さんを査定委員から解任し、奥平さんを部長に選任します」
推薦者が渡した手土産は、受け取った候補者ごと選考外へ落ちた。